――殺人事件の場合、ご遺族の方々が事件の解決として望むものはやはり「犯罪者の更正」ではなく「応報」なのでしょうか。他の事件も含めて取材者としてお感じになったことはありますか。
齊藤:例えば、自分の子どもが殺されたらやはり「応報」に傾くと思いますね。多くの人がそうなのではと思います。ただ、『罪と罰』に登場する弟さんを失った原田さんは「生きてこそ償えるから犯人を死刑にしないで下さい」と言ったんですね。確かにそういう人もいるんです。なので、被害者感情を一括りにしてはいけないと感じますね。
――大まかに分けて、冤罪の可能性や加害者の更正を強調すると死刑廃止論に、犯罪の抑止や被害者感情を重視すると存置論に傾きやすいと思いますが、この点についてどのようにお感じになっていますか。
齊藤:こういう取材をしていると、周囲の人たちからは「死刑廃止論者なんですよね」という言われ方をされることもありますが、決してそうではありません。わからないというのが正直な感想です。
例えば、名張毒ぶどう酒事件のように、冤罪の可能性のある事件を取材した時には、無辜の人を殺してしまうかもしれない死刑は廃止すべきだと感じますし、今回の闇サイト殺人事件のような残忍な事件を取材した場合にはやはり死刑は必要かもしれないと思います。事件ごとに自分の中で判断がグラグラ揺れているような状態ですね。
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ただ、一般の人たちはここまで考えたことがないと思いますし、考える機会もないと思います。死刑に対して一般の人たちももっと考える機会があった方が良いのではとは感じますね。
――東海テレビのドキュメンタリー制作チームが大切にしているものは何でしょうか。
齊藤:当社のドキュメンタリーチームは継続取材を大切にしています。定年退職したスタッフも手伝っていることもあり、今後も先輩が築いた財産を受け継いでいきたいと思っていますね。
――今後、取り組みたいテーマについてお聞かせください。
齊藤:自分はもう後進に道を譲る年齢に差し掛かってきましたが、記者生活を振り返ってみると、ターニングポイントはやはり「名張毒ぶどう酒事件」だったんだと思います。そこで、冤罪を信じる当事者の人たちの思いに触れたことがきっかけで、一つ一つ問題を掘り下げているうちに司法シリーズが生まれました。
現在、名張事件は元死刑囚の奥西勝さんが亡くなり、90才の妹さんが名古屋高裁で再審請求を引き継いでいます。最後まで名張毒ぶどう酒事件は追いかけていきたいですね。
<取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。