コロナで始まった欧州での職人生活。リノベーションや文化財の修繕で感じたこと

数トンにのぼる廃棄物

剥き出しになったレンガの壁 さて、筆者がリノベーションを手伝うことになったのは、築90年ほどの物件の最上階(6階)。なんと幸運なことにカミェニツァなのにも関わらず、エレベーターがついている! 聞くところによると、街で二番目にエレベーターが導入された建物で、何度も修繕が行われているため、重い資材を運ぶ大きな助けになっている。  しかし、このリノベーション、軽い気持ちで働き始めたが、「リフォーム」という生ぬるいものではない。作業をすればするほど作業が増えていく、蟻地獄のようなものなのだ。  壁のペンキをコテで剥がせば、その下には石膏。石膏を金槌で壊せば、今度は煉瓦。床のパネルを剥がせば、木製の板。木製の板を剥がせば、砂と梁……と、次々に難敵が現れる。  前述のように最上階にあるため、木材などは釘を抜いてできるだけ再利用するが、それでも廃棄物は数トンにのぼる。エレベーターに収まるものはまだマシだが、そうでないものは階段で運ばなければならない。新たに使う資材も同じで、朝から住人が仕事から帰る夕方まで、ひたすら工具を振るい続け、資材と廃棄物を運び続けることに……。

住み続けることの代償

浴室の工事の様子 カミェニツァ最大の「地雷」である水回りはさらに悲惨だ。パネル、板の下には階下への水漏れを防ぐためにコンクリートが流し込まれていた。さらにそのコンクリートには鉄製の網が溶け込んでいるため、鑿と金槌、ペンチを駆使して作業を進めていく。  当然、これらは再利用できないため、さらにゴミが増えていく。汗だくで床のコンクリートを打ち続ける姿は、さながら『ショーシャンクの空に』か『大脱走』である。  ようやく床がなくなったと思えば、今度は梁が腐食していることが判明。これは丸ごと取り替えるのは不可能なので、新鮮な木材とコンクリートで補強することになった。  「リフォームを繰り返して、歴史的な建物を長く使い続ける」というと聞こえはいいが、その手間は生半可なものではない。しかも、業者に頼むこともできるが、多くのポーランド人は経費を節約するため、こういった作業を自らこなしてしまうのだから、頭が下がる。単にケチなのか、働き者なのか……。  しかし、しっかりとリノベーションができれば、住宅価値が大きく跳ね上がることになる。自分で暮らすにせよ、売却するにせよ、貸し出すにせよ、苦労して投資しただけのリターンは返ってくるのだ。
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建築物や職人に対する文化の違い
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