境の話が終わると、私は返事をしました。まず告げたのは、長年通っているかかりつけの精神科クリニックの診察を急きょ予約したので、そこで診察を受けてくること。診察で今回の大失態についてすべて医師に伝えて、医師の指示に従ってこれからの行動を見直すつもりだと告げました。
私が長年うつ病で迷走していたことは、発病間もない10年ほど前から境も知っています。それと私の飲酒癖が関係あるのだろうということも。でもそれが言い訳にならないことは私もわかっています。正式な診断名は「双極性障害(そううつ病)」で、躁と鬱を繰り返し、いちばん回復が難しいとされています。最近の私はきっと躁に近い状態で、舞い上がっていたのだと思います。
同時に私は発達障害の一つ、アスペルガー症候群(ASD、自閉スペクトラム症)とも診断されています。この障害の特徴は「社会的なコミュニケーションが苦手で、他人とのやりとりがうまくできない。興味や関心が偏っている」ということです。
私は人と目を合わせて話すのが苦手です。だから人の顔を覚えるのも苦手です。一言で言えば「記者に向いていない」……私は自分に向いていない職業を、そうとは知らずに選びました。こうしたことも私のうつ病歴や飲酒癖に関わっているのだと思います。でも、この30年余り「いい記者になりたい」という思いでやってきたのですから、これも言い訳にならないと感じています。
私の中にまだNHKへのこだわりがあることは、私も気づいていました。でも、31年間記者としてそこで育ってきたおかげで今の自分があるから、そこをすべて捨てることはできません。
それに対し境は「そこが捨てられないのはわかるよ。でもジャーナリズムの考え方については別だと思う」と答えました。こうしたさまざまなことを、境は私と向き合って率直に語り合ってくれました。
途中でもう一人が加わりました。久保田徹くん。24歳の映像作家で、ご縁あって私の映像を撮りためています。自身のドキュメンタリー作品の一部として、境の承諾を得て撮影にきました。私はそのことを知りませんでしたが、撮られて困ることもないので、私たちのやりとりを撮ってもらいました。
さらに、その場で私の「謝罪動画」を撮ることになりました。カメラに向かって、ご迷惑とご心配をおかけしたすべての方々にお詫びする動画です。
翌29日、かかりつけの精神科クリニックで診察を受けました。主治医と初めてお会いしたのは12年前。途中、転勤などで間が空きましたが、もうずいぶん長くお世話になっているので、私の病状病歴や飲酒癖もよくご存じです。
今回の大失態について説明すると、開口一番「仕事の前に飲んだというのが、そもそもの失敗ですね。飲む量を抑えられないとアルコール依存症の疑いが大きいですよ。そうなったら専門の医療機関に行ってもらわないといけません」。
私は3年ほど前から、ここでカウンセラーのカウンセリングも受けていました。当時、躁状態の傾向が出ていたため、それを抑えるための相談でした。だいぶよくなったのでしばらく中断していましたが、今回、再開することにしました。次にカウンセリングが受けられるのは3日後の9月1日です。
「少し間が短いですけど、次の受診日はこの日にしましょう。その日まではお酒を飲まないでください。飲まずにいられるかどうかが大事です。飲んでしまうようなら、依存症ということで専門機関をご紹介することになります。それは断酒ということになりますよ。相澤さんにとっては生きがいの一つだから苦しいでしょう? だから我慢してください」
この診察結果を私は境に伝えました。そしてもう一人、「財務省改ざん訴訟」で国などを訴えている赤木雅子さんにも伝えました。「私は真実が知りたい」という著書をともに出した、今もっとも大切な取材先の方です。