「順番のない順番」を待っていた若者は何から逃げ、何を見つけたのか?<映画『ソワレ』外山文治監督&村上虹郎>

ソワレ 8月28日より映画『ソワレ』が公開される。本作は“かけおち”とも呼べる若い男女の逃避行の旅を追うドラマだ。  オレオレ詐欺に加担して食い扶持を稼いでいる俳優志望の翔太(村上虹郎)は、ある夏の日、高齢者施設で働くタカラ(芋生悠)と出会う。祭りに誘うためにタカラの家を訪れた翔太は、彼女が刑務所帰りの父親から暴行を受ける様を目撃し、とっさに止めに入るが、タカラは衝動的に父親を刺してしまう。絶望するタカラを見つめる翔太はその手を取り、行く当てのない逃避行に身を投じる。  監督は、シルバー世代の婚活をコミカルかつ真摯に描いた『燦燦-さんさん-』(2013)の他、将来に悩む女子高生の心理を丹念に追った短編『わさび』(2017)などで高い評価を得ている外山文治。今回は俳優の豊原功補が映画初プロデュースを手掛け、アソシエイト・プロデューサーとして女優の小泉今日子も名を連ねている。  ここでは、短編『春なれや』(2017)でもタッグを組んでいた、外山文治監督と、村上虹郎へのインタビューをお届けする。彼らはなぜ逃げたのか? 高齢者を登場させる理由とは? など、作品を深く読み解くことができる事実を聞けたので、映画を楽しむ際の補助線として参考にしてほしい。

彼らが逃げてしまった理由とは

——映画の中で描かれている、もしくは観客それぞれに考えてほしいことだと承知のうえでお聞きします。なぜ翔太は、父親を刺したタカラと一緒に逃げたのだと思いますか。 外山文治監督(以下、外山) 翔太は自身の姿をタカラに重ねていて、彼女と出会ったこと、その不遇の人生を垣間見たこと、目の前で手が血まみれになった彼女を見たことなどから、彼自身も現実から逃げたかったのだと気付いたのだと思います。その瞬間、衝動的に逃げたということに、僕としてはあまり説明はいらないような気がしていました。 村上監督 そういう意味では、明確な理由は映画では描いていません。「こうだから逃げるよね」っていうロジカルな描き方もできたと思うんですけど、あえてそうしませんでした。もちろん翔太の判断は常識からすれば間違いですし、観客がそこにノレなかったら「なんで一緒に逃げたんだろうね」っていう疑問が付いて回ってしまうとも思います。でも、若い時は間違った選択を取るものだと思うんです。   村上虹郎(以下、村上) 映画作品として逃げるという選択肢を取るのは必然というのはもちろんですが、翔太とタカラのそれぞれの見方が違うことも理由だとも思います。冷静に見ると、あの場面で逃げたいと考えていたのは、実は翔太じゃなくてタカラだとも言えるんですよね。 ——翔太も最初は逃げるという選択ではなく「ちゃんと俺が警察に証言するから!」とも言っていましたよね。父親を刺して憔悴しきったタカラの姿、その時の彼女の言葉が、翔太を突き動かしてしまったのだと、私も思います。 村上 その瞬間の翔太が彼女を見て「逃げよう」という気持ちで100%になっているのは間違いないですが、そのうちの90%くらいは自分の都合かもしれませんね。いずれにせよ、そこで翔太という人間に逃げないという選択肢は消えてしまった。さらに、その後に翔太はわかりやすく法に触れ、罪を重ねていきます。そのことがタカラを救う場面もあるとはいえ、無意識的に社会の規範から外れていってしまっていることも、翔太というキャラクターの“らしさ”なのだと思います。

高齢者を登場させるのは、“順番のない順番を待っているような暮らし”のため

——翔太はオレオレ詐欺の片棒を担いでいて、一方でタカラは介護の仕事をしています。お年寄りへの関わり方は完全に正反対の2人ですよね。外山監督の作品では、村上さん主演の『春なれや』の他、『此の岸のこと』や『燦燦-さんさん-』でも、お年寄りの視点を描かれています。そこに、何かこだわりや矜持はありますでしょうか。 外山 いつも高齢者を描いているので、今回も高齢者が物語に関わるのは自然なこと、こだわったというよりも、“すっ”とそういう設定になったという感じですね。今回は、それぞれの家庭というか“下界”には戻らない、山の上の施設を終(つい)の住処にしている人々を描いています。  普通であれば、生きる気力に溢れているはずの年代の女の子のタカラが、高齢者の方と一緒にひっそりと終わりに近づいているような、順番のない順番を待っているような暮らしをずっと続けているということが重要でした。それがオレオレ詐欺に加担している翔太との対比になるようにしたんです。 ——その設定はプロデューサーの意向などではなく、外山監督がロケ地なども含めて考えられたのでしょうか。 外山 実は、タカラが児童養護施設で働いているという設定も最初に考えていたんですよ。実際に豊原プロデューサーと児童養護施設に一緒に行って、子どもたちと一緒にご飯とかも食べましたね。なかには深い哀しみを抱えて生きる子もいましたが、彼らの未来に向かう力には大きな希望も感じていました。そのことから、やはりタカラがいるのは、太陽のような存在の子どもたちがいる場所ではなく、高齢者の暮らす施設のほうが良いと思い直しました。
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役者を演じる役者だからこそ理解できたこと
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映画『ソワレ』は、8月28日より全国にて公開。 村上虹郎 芋生 悠 監督・脚本 外山文治 配給・宣伝:東京テアトル PG12+ (C) 2020ソワレフィルムパートナーズ  soiree-movie.jp