トランス女性へのトイレ利用制限措置は違法。経産省事件の当事者が伝えたかったこと

裁判、そして一部勝訴

 A子さんは、人事異動後にカミングアウトをせずに女性トイレ使用を求めること、それが法令違反には当たらないこと、他の女性職員と原則として平等の処遇にすることなどを求めて行政措置要求(※2)を訴え出たが、却下という判定をされた。その判定を取り消すためには裁判しか残されていなかったため、2015年に東京地裁に訴えることとなった。  裁判では同時に2つの事件が併せて争われることになった。行政措置要求の取消請求と、管理職や産業医によるハラスメント発言に対する国家賠償請求だ。  判決までに実に4年1ヶ月かかった裁判だった。労働事件での弁護士費用は通常でも数百万円かかる。全面勝訴したとしても、必ず赤字になることは覚悟していた。それでも、泣き寝入りだけはしたくなかった。  結果は一部勝訴。トイレ利用制限措置は違法であるとの行政措置要求の判定の一部取消、そして「男に戻ったら」発言も違法と認められ、132万円の国家賠償が命じられた。全面勝訴とは言えない内容であったが、それでもA子さんは、トランスの雇用や労働環境改善の一助にはなったはず、と感じた。  現在A子さんは控訴審を戦っている。主に、他のハラスメント発言についての違法性が認められなかったからだ。 (※2)国家公務員が人事院に対して、勤務条件について行政措置を求める手続き。

トランス女性の女性専用スペース利用について

 そもそも冒頭の上司の発言のように、トランス女性が女性専用スペースを使用することはセクハラに当たるのだろうか。そのとき、「性同一性障害の人の権利」と「女性の権利」が衝突していて、「女性の権利」の方が優先されるべきなのだろうか。  実際、2018年のお茶の水大学のトランス女性受け入れ決定(※3)を皮切りに、反トランスジェンダーの議論が巻き起こっている。ここでは、反トランスジェンダーの議論を整理して、その非合理性を明らかにしたい。  トランス女性が女性専用スペースを利用することがセクハラに当たる理由として、よく挙げられるのが、性犯罪が増えるということだ。本当に性犯罪が増えるのだろうか。  CNNの記事によれば、2017年3月までにアメリカの19の州でトランスジェンダーが性自認に応じた公共施設を利用できるようにする差別禁止法が定められているが、その法律の発効以降も、トイレにおける性的暴行の報告はなかったとのことだ。  また、果たしてトランス女性を装って性犯罪を行った人がいたとして、責められるべきはトランス女性なのだろうか。明らかに、責められるべきは性犯罪の犯人その人である。  女性専用スペースは女性トイレだけではない。温泉や銭湯の女湯も問題に挙げられることがある。これに関しては、議論が捻じ曲げられているといっていいだろう。なぜならば、トランスジェンダーの活動家も、性別適合手術前に女湯に入ることまでは求めていないにもかかわらず、反対派がまるで活動家がそれを求めているかのようにして、批判している状況があるからだ。 (※3)実際の受け入れは2020年度に開始した。
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「女性の権利」と「性同一性障害の人の権利」
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