IT関係者なら「スヴァールバル諸島」にピンと来る!?
今回の話題でスヴァールバル諸島という名前が出てきた。この名前を見て、IT関係者ならピンと来ることがある。以前、違う話題で名前が出てきた場所だからだ。
それは、
スヴァールバル世界種子貯蔵庫(スヴァールバル全地球種子庫)だ。ノルウェー領スヴァールバル諸島にある、農作物の遺伝資源の巨大な保管庫である。人類が改良してきた農作物のソースコードを保管するプロジェクトだ。2008年に開設され、地下130mに設けられた貯蔵庫に、種子が保存されている。98万種類を超えるサンプルが保管されており、最大450万種類の作物を保管できる規模の大きなプロジェクトだ。なぜ、IT関係者がピンと来るかというと、
ビル・ゲイツが主導したからだ(参照:
コトバンク、
WIRED.jp、
Svalbard Global Seed Vault)。
こうした前例があるため「北極圏にデータを保存」というニュースを見た瞬間に、「スヴァールバル諸島かな?」とIT関係者は連想した。
長期的に物を保存するのに適した場所というのは、ある程度条件が限られている。地震や火山、台風や水害といった自然災害が少ないこと。戦争やテロが起き難く、政治的に安定していること。岩盤でできた地下深くで、気温や湿度が低いこと。人口密集地から離れているが人間がアクセス可能であること。こうした条件を満たす場所として、スヴァールバル諸島が選ばれている。
スヴァールバル諸島がデータ保存の場所に採用されるワケ
ノルウェー領のスヴァールバル諸島は、ノルウェー北方の海に浮かぶ世界最北の定住地だ(参照:
Google Map、
コトバンク)。この諸島の北には北極海しかなく、ヨーロッパ大陸からは600km以上離れている。そのため、たとえヨーロッパで戦争が起きても、巻き込まれる可能性は低い(参照:
Google Map)。
月の平均気温は-13℃から6℃のあいだ、月の降水量は6mmから20mmのあいだと、低温で雨量が少なく気候条件の変化はあまりない(参照:
気象庁)。
ただ、地震の懸念がないわけではない。地震はプレート境界で起きやすいが、スヴァールバル諸島はプレート境界の近くにある。2008年6月には、スヴァールバル諸島沖でマグニチュード6.1の地震が発生している(参照:
損害保険料率算出機構)。
もし、パニック映画を作るならば、地下100m以上の地下貯蔵庫にいる時に、巨大地震に見舞われて閉じこめられるというシナリオも作れるだろう。完全に安全な場所など、地球上にはどこにもないということを思い知らされる。
このスヴァールバル諸島は、16世紀後半から捕鯨の基地として利用された。19世紀後半には石炭の鉱床が見つかり、20世紀には各国資本が入り、鉱山として開発された。その結果、様々なトラブルが起き、スヴァールバル諸島の国際的な立場をどうするか決める必要が生じた。
最終的に1920年に、各国がスヴァールバル条約の協定に署名した。この条約により、スヴァールバル諸島はノルウェーの領土となった。また、条約締結国の国民や会社は、島に出入りしたり居住や商業活動をできる。軍事施設や海軍基地を設置しない。そうした規則が決められた(参照:
成山堂書店)。
地理的な条件だけでなく、こうした政治的な条件も、人類に必要なデータを保管する場所として採用される理由だ。