5:『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019)
2016年に公開されたアニメ映画『この世界の片隅に』は絶賛に次ぐ絶賛で迎えられ、異例のロングランヒットを記録していた。すでにデジタル配信がスタートしており、9月25日よりソフトも発売される『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、そちらに250以上の新規カットを描き加えた、もはや“新作”と言って差し支えない内容である。
加えられたことで特に大きいのは、遊郭の娘“リン”のエピソードだ。リンと主人公であるすずの関係性は親友同士というだけでなく、複雑な愛憎の感情が入り混じる、“オトナ”な印象も強くなっていく。リンの存在により、すずの心情や、その行動の印象、その前後の『この世界の片隅に』から全く変わっていないはずのシーンでもさえも、印象がガラリと変わっていく。
『この世界の片隅に』は戦時下の困難の中にあっても、懸命に日々を生きていく人々の姿を丹念に綴っていた。この『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』では、さらに四季折々の風景や、女性としての物語が濃く描かれたことによって、さらに“あの時代の生活”を新たな視点をもって体験できるようになっている。上映時間は2時間48分と非常に長くなったが、ぜひ腰を据えて、じっくりと見ていただきたい。
2020年には、他にも第二次世界大戦を扱った映画が公開される。80歳の老婦人にかけられたスパイ容疑が広島と長崎に落とされた原子爆弾のとある事実に繋がっていく
『ジョーンの秘密』は現在公開中で、アメリカ軍と日本軍のそれぞれの立場を描いた
『ミッドウェイ』は9月11日より公開、反逆者と疑われる夫とその妻の姿を追った
『スパイの妻』も10月16日より公開となる。
いずれも、戦時中の特別な事態に巻き込まれた人々の姿を描いていながらも、人間の愛憎入り交じる心理や葛藤、社会的な価値観やその問題は現代にも通ずるものとして映る。完全に同列で語るべきではないだろうが、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』での、困難な状況にあっても懸命に日常を過ごす人々の姿は、新型コロナウイルスが蔓延した世の中で生きる我々の姿にも重なるところもあった。
戦争という過去の出来事を描いた映画は、現実の戦争のない平和な日常の幸せを噛み締められると共に、その歴史の裏にある悪しき体制を繰り返さないために何ができるか、という学びを得られることも往々にしてある。今こそ、これらの第二次世界大戦を描いた映画を観て、現実の問題にフィーバックするためのヒントも探してみてほしい。
<文/ヒナタカ>