Gメンの圧力が効いているかどうかは、万引き犯の表情でわかる
「今までは経験や感などを頼りに防止を仕向けてきましたが、表情分析技術を活用するようになってからは、防止する際の相手の表情から感情を適切に推測できるようになりました。相手との距離が心理的圧力の強度を図るバロメーターなら、表情はそれがどのように相手に作用しているのかを図る物差しのようなものです。この2つを観ながら、防止を仕向けるようにすることで、的確に防止をすることができるようになると考えます」
ところで、この万引き防止技術ですが、レクチャー出来る保安員は少ないそうです。
「相手の心理を考えて、いかにクレームにならないように商品を出させるのかが重要です。相手にどの程度、心理的な圧力がかかっているのかが分からなければ、防止は出来ません」
レクチャー出来る保安員が少ない理由は、経験から培われた保安員の経験則が「見える化」されていないからだということがRさんの言葉から推察されます。
またRさんは、保安員だけでなく、お店の従業員に対しても、「表情分析を活用した万引き防止法」をレクチャーすることができれば、より安全な万引き防止ができるのではないかと語られました。
「万引きを防止する際にクレームになる大きな原因は行き過ぎた防止行為にあります。対象者に必要以上に心理的圧力を与えた場合、万引きを阻止されたことに対する怒りと付きまとわれた苛立ちからクレームに発展します。悪いのは最初にバックなどに商品を入れた対象者ですが、万引きが成立していない以上、彼らはお客様だと強気で出ることができます。ただ、心理的圧力が弱すぎると対象者は商品を出さずに持って行ってしまいます。ですから、強すぎても弱すぎてもだめなのです。この絶妙なバランスをとりつつ防止を成功させるためには、やはり表情分析から感情のブレや感情抑制の頻度・強度を観察し、相手が商品を出しそうかどうかを判断して、的確に圧力をかけていくことが必要だと思います」
余談として、Rさんは対象者の女性に近寄りすぎてクレームを言われてしまったことを話して下さいました。しかし、ここでも表情分析を用いて、このクレームが単なる牽制に過ぎないと判断し、適切に対応することが出来、万引き防止に導けたそうです。
相手の表情を適切に読み解くことで、相手の感情を推測し、その先の行動を予測することが出来ます。
この心理学の知見を見事に実務における問題解決に活かされているRさん。心理学の知見が、机上の空論となり、「知っているけど使えない」状態に陥っている方々を、教える側・教わる側含め、多く見ます。
そんな中、地に足の着いたRさんの活動は本当に素晴らしいと思わせて頂きました。今後ともRさんの活動に注目したいと思います。
<文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。