止まらない医療・介護崩壊へのカウントダウン。「2025年問題」を避けるために知るべきこと

「理不尽」の仕組みを理解するべき

 しかし、このような感情の抑制作業は、心の風船のなかに感情を溜めていくことになる。苦しくてどこかで溜まった感情を解消しようとしたり、溜め続けると心の風船が張り裂けてうつ病などを発症してしまう。人間は自分に余裕がないと、周りに対しても攻撃的になってしまう。それは、自己防衛のための発散である。  このような状況下では、些細なことにも心が敏感に反応してしまうので、怒りの感情を引き起こしている根本的原因については盲目的になってしまう。そして、それが目の前で起こる同僚の些細な仕事のやり方の違いが原因なのか、感情労働によって心に溜まったストレスが原因なのか正しく判断できない。  また、その矛先が職場の同僚に向かってしまい、職場の人間関係悪化へと繋がっている可能性もある。決して、入居者に対する感情労働が全ての原因であると断言しているわけではなく、もちろん介護従事者間だけによって発生するストレスもあるだろう。  しかし、介護従事者の持つ優しさや、誠実さ、プロフェッショナルさから、不満や不安を周りに打ち明けられないままでいる環境も多いはずだ。  介護を始めたばかりの人は、入居している方の「理不尽」に見える怒り・行動に対して、感情の抑制(感情労働)だけで対処しがちではないだろうか。そうすると、ずっと感情労働を続けることになり、すぐにバーンアウト(燃え尽き)してしまう。離職者の73%が勤務年数3年未満となっているのは、そういうことも原因のひとつかもしれない。  例えば、認知症にも様々な症状があるため、「理不尽」に見える行動が知識をつけることで、実は症状による理にかなった行動だとわかる場合もある。そのように、「理不尽」を理不尽だと思って放置しておくのではなく、相手の症状を理解することで日頃の感情労働によるストレスが軽減されるのではないだろうか。人は理解できないことにストレスを感じてしまうからだ。  まとめると、理不尽に感じて蓄積されたストレスから周りを攻撃するようになってしまい、職場環境の問題が発生。結果、必要な人材の離職が進んでしまうというわけだ。  これらを改善するためには、座学での研修やセミナーはそれほど効果を発揮しないだろう。何かを学んで行動に移せる人は1%しかいないと言われているからだ。  そのため、職場の人同士で愚痴をこぼせる、許し合える、共感し合える環境作りが重要だ。さらに、それを誰かが積極的に実践して、その行動が広がっていく必要がある。また、「感情労働」のメカニズムについても、上司や施設長は理解しておく必要があるだろう。

感情を抑えるのではなく、発散できる仕組み作りを

 また、短なケースにおいても、相談をされたら、相手の考えを否定して自分の意見を言うのではなく、「共感」をするようにしてあげてほしい。共感とは、自分の信念を曲げてまで同意するのではなく、相手の感情を代弁・引き出してあげることだ。心に溜まった負の感情を吐き出させてあげるのだ。  アンガーマネージメントが怒りを抑えるテクニックではなく、怒るべきときに怒るテクニックであるように、感情を上手に表現できる環境、手段を身に着けることは、感情労働者に必要な習慣だ。  今の仕組みのままでは、介護の仕事を志した人たちを消費し続けてしまうようになる。AIを搭載した介護ロボットが発達するか、介護の職場環境が改善されなければ、将来的に私たちは介護してもらう先を失ってしまうかもしれない。  また、介護従事者が入居者から受ける暴力などのハラスメントも存在する。そういうとき、認知症だから我慢させるお金をもらっているから我慢させるという方針だと、介護従事者は身体的にも精神的にも危険な状態に置かれてしまうだろう。  入居者を守る必要があるのは当然だ。しかし、2025年問題を解決するには、介護従事者も守られる環境を作っていく必要があるのではないだろうか。 【参考資料】平成30年度「過労死等の労災補償状況」』 厚生労働省 『介護労働の現状』厚生労働省 <文/山本マサヤ>
心理戦略コンサルタント。著書に『トップ2%の天才が使っている「人を操る」最強の心理術』がある。MENSA会員。心理学を使って「人・企業の可能性を広げる」ためのコンサルティングやセミナーを各所で開催中。
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