住民との話し合いでも決着つかず、反対署名が開始される
2020年1月18日、フジタの社員6人と佐藤代表が韮尾根地区を来訪。ここでも虚偽報告の真相は明かされなかった。ただし、この計画で初期から住民との折衝に当たっていたフジタのW氏が「(市に転居の話をしたのは)一番可能性があるのは私だと思います」と曖昧に回答し、10月9日に内藤さんの引っ越し話を初めて聞いたというF氏もその後、社内で問題を精査していなかったことも明らかになった。
さらに、住民の憤りに火をつけたのは2月10日。この日の話し合いで、佐藤代表は受け入れ残土を100万立米から60万㎥に減らすことを表明。フジタは、その場合でも「道路を拡幅したら1日160台のダンプカーによる運搬が34か月、拡幅をしなければ120台で45か月かかるので、どちらかを選んでほしい」と住民に要請した。
これは拡幅そのものを問題視している住民の神経を逆なでしたものだった。これを機に、志田線沿いの地権者8人は「用地交渉には一切応じない」「事業者等の訪問や連絡は一切断る」とした意思表明書を佐藤ファームに送ることになる。
また、この一連のできごとから津久井農場計画そのものを信用できなくなった住民たちは、10月から農場計画に反対する署名活動を展開。すると、地域の外からも署名に応じる人が増え、最終的には2247件が集まったのだ。
2月には、韮尾根自治会が審査会の全委員と本村賢太郎市長にも問題の詳細を文書で送付した。この文書が汲み取られたのであろう、2020年2月26日に審査会は本村市長に宛てて「志田線の拡幅は確定していない。(事業者は)何か確定した条件で見直しての環境保全措置や事後調査を実施すること」(概要)との答申案を提出。
本村市長は、そこにさらに「地元自治会から地域環境悪化への懸念に関する要望書が署名を添えて市に提出されたことも念頭に置き」などの文言を加え、佐藤ファームに対して「地域住民等との意思疎通を図ること」との意見を表明したのだ。
環境アセス手続きでは、市長意見を取り入れてアセスの最終報告書というべき「環境影響評価書」を作成しなければならない。だが、市長意見に従えば、地域住民と佐藤ファームとが協議のうえで同意に至らなければ、評価書は作成されず、計画は進まないことになる。
佐藤代表はその後「住民からの質問に丁寧に答えます」と表明し、話し合いを要望しているが、コロナ禍での外出・集会自粛の影響で7月6日時点でも話し合いは実現していない。
佐藤誠氏の過去を知る嶋田俊一氏
この取材の過程で、私は「佐藤誠代表を知っている」という男性と知り合った。相模原市緑区在住の嶋田俊一氏だ。
約10年前、佐藤代表の父親と懇意にしていた横浜市在住のK氏から「佐藤の息子(佐藤代表)が土地を2か所、それぞれ1億円で騙されて買ってしまった。その処分に困っている。相談に乗ってくれないか」との連絡を受けた。
嶋田氏は佐藤代表と一緒にその土地(今の津久井農場計画地)を見に行った。佐藤代表は
「ここを残土捨て場にしようと思う」と説明したが、嶋田氏は
「残土捨て場は谷にするべき。この急斜面では無理だ」と告げ、以後、寺院関係者に「墓地にならないか」と打診をしたが、すべて断られた。
そして2009年には佐藤代表に「私が仕事で回収するスーパーやドラッグストアなどからの段ボールの保管場所としてあの土地を使い、とりあえず利益を出し、廃品回収業の下地を作ることを検討してみては」との手紙を送ったが、返事はなかった。
また2か所の土地のもう1か所は、反社会勢力組織が産廃などの不法投棄を始めた。これにK氏が対処し、それを片づけさせたこともあるという。
ところが、5年ほど前から佐藤代表とは音信不通になる。そして2019年8月、偶然にインターネットで津久井農場計画を知った。嶋田氏は「この土地の件で世話をした人間に何の連絡もないとは」と憤ったという。
もしこの話が本当だとすれば、佐藤代表は農場などやる気はなかったことになる。ただし、フジタとつながったことで、残土を受け入れれば数十億円の金が入ってくるということで、改めて農場経営を目指した可能性も否定はできない。
そこで筆者は4月上旬、佐藤代表に宛てて「嶋田氏の話は事実なのか、佐藤ファームの住民への説明責任、フジタを紹介した政治家とは誰か、そして万一の土砂崩れでの補償の用意はあるのか」など17の質問を手紙で送った。
すると1週間後に佐藤ファームの顧問弁護士から「後日、弁護士から回答を入れる」との電話が入った。そして回答がFAXで入ったのは、1か月以上も経った5月22日のことだった。
その内容は
「地元説明会等において通知人(佐藤代表)自らご説明を差し上げて参りたいと考えているところであり、個別の対応は差し控えさせていただきます」という実質上の“ゼロ回答”だった。
だがこれは、佐藤代表が地元住民から筆者と同様の質問が出されても回答すると明言したことである。実際に地元自治会は、佐藤代表に対して質疑をする予定だ。