リニア工事の残土処分のため? 相模原市の急斜面に「不思議な牧場」建設計画

引っ越す予定がない住民が引っ越すことになっている

内藤さん宅

いつの間にか引っ越すことにされていた内藤さん宅(左)

 津久井農場の造成で予想される問題は、沢が埋まる可能性、土砂崩れの危険性が指摘される。地元住民に直結する問題は、生活道路である市道志田線を1日に300台もの大型ダンプカーが通ることだ。そうなると犬の散歩もできなくなり、1日中排気ガスや騒音、振動に悩むことになる。  志田線は幅5.5mしかなく、乗用車同士でもすれ違いが難しい。そのため、フジタは、その道を拡幅する必要があるが、この件を巡って、住民に不信を抱かせる事件が発生した。  その拡幅工事には、ある家屋の立ち退きが必要となる。フジタは相模原市に「一軒の家が引っ越すことになった」と報告して計画を進めようとしたが、その家の家族はそのことをまったく知らなかった。  コトが発覚したのは10月4日。その前日、鈴木氏は韮尾根の住民から情報収集を行っていたが、その一人である内藤ひろみさんから「9月下旬に、フジタが来訪して『工事期間中に庭を2m幅だけ貸してほしい。工事終了後に返す』との説明を受けた」との情報を得た。  鈴木氏は翌日、相模原市環境政策課に電話で「そんな話があるのか」と尋ねると、夕方に返信の電話があり、「工事期間中、内藤さんは一時的に引っ越すことになっている」と回答した。  驚いたのは内藤さん本人だ。 「そんな話は一度もしていません!」
相模原市の環境影響評価審査会

相模原市の環境影響評価審査会。正面の白いシャツが片谷会長

 さらに問題は続く。  10月9日。フジタ社員F氏が内藤宅を訪問。内藤さんの兄が「引越しとはどういうことなんだ」と問い質すと、その話を初めて聞いたというF氏は返答も説明もできなかった。この時点でフジタを信用できなくなった内藤さんは「信⽤できないから、土地は貸さない」ときっぱりと断った。ところが――。  環境アセス手続きでは住民説明会のほかに、相模原市が常設する有識者で構成された「環境影響審査会」で計画が審議されるのだが、その第2回目となる11月28日、フジタは内藤宅が転居することになる資料をそのまま提出したのだ。  20年1月20日の第3回目の審査会で、委員の一人は「引っ越す予定がない住民が引っ越すことになっている。これは誤植なのか?」と疑問を呈すると、審査会の片谷教孝会長は「地権者の同意なく着工はできない。具体的方針を出してもらう」と佐藤ファームへの正しい対応を求めた。

事業者は「知りませんでした。今、初めて聞きました」

 この事件で韮尾根自治会が抱いた疑問は、「施工業者を指導する立場にある佐藤代表がこの件に関与していない」ということだった。住民約20人と佐藤代表は、2019年12月21日に話し合いを持った。  そこでわかったのは、佐藤代表は工事の内容はもちろん、審査会で配布された資料にもまったく目を通していないという事実だった。つまり、工事のすべてをフジタに丸投げしていたのだ。だから、内藤さんの引っ越し話も当然だが知らなかった。以下、当日の録音データから書き起こす。 内藤:なぜウチが引っ越すことになったのか説明してほしい。 佐藤:把握していません。申し訳ありません。 内藤:でも(フジタ作成の)書類は佐藤さんが認めたもの。工事は承知しているんですよね。どこを拡幅するかご存知ですよね。 佐藤:知りませんでした。今、初めて聞きましたので。  この発言に鈴木氏は徒労感を覚えた。さらに、佐藤代表の経営者としての姿勢にも疑問の目が注がれた。 住民:2020年から2024年までの5年間の工事で、どれくらいの支出があるか計算しているんですよね。 佐藤:まだ計算していないです。 住民:普通は、土地を買った時点で、大ざっぱな計算をするはず。工程表も作る。どの時点で借金が終わるかの計算もするよ。 住民:佐藤さんは、工事をフジタにまかせているの? 佐藤:はい……。
話し合い

2019年12月26日 住民(向かって左)と佐藤誠氏(正面左)とフジタ社員(向かって右)とが話し合いを持った。その場で、津久井農場計画が佐藤氏からフジタへの丸投げだったことが明らかにされた

 さらに住民は、佐藤代表が某政治家に紹介されてフジタとつながったことも知った。そして5日後の12月26日、筆者の目の前で佐藤代表とフジタが住民と話し合った。ここで住民が「佐藤さんはフジタに丸投げしているんですよね」と念を押すと、フジタも「はい」と認めた。そして鈴木氏が、内藤家転居の件で「いったい誰が市役所に虚偽の報告を伝えたのか?」と問うと、フジタは「調査します」とだけ約束した。
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住民との話し合いでも決着つかず、反対署名が開始される
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