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新型コロナウイルスの猛威は、全世界を覆い、未だに収束が見えません。以下のグラフは、これまでの一日当たり感染者数の推移(出典:
WHO)です。短期的には増減しつつも、長期的にはピークアウトしていないことが分かります。
日本でも、同様に予断を許さない状況です。いったん収束したかに見えた一日当たり感染者数は、6月下旬から再び増加傾向に転じています(出典:
厚生労働省)。
日本の新型コロナ陽性者数推移(7月11日現在)
出典:厚生労働省
そして、新型コロナウイルスのような
未知の感染症リスクは、気候変動によって高まると予測されています。2018年に閣議決定された「
気候変動適応計画」は、感染症について「気温の上昇に伴い、発生リスクの変化が起きる可能性はある」と示しています。ただ、そもそも「現時点で研究事例は限られている」との課題も指摘されています。
同じように、近年の大きな問題になっているのが、
大規模な風水害の頻発です。過去3年をさかのぼるだけでも、毎年のように大きな風水害が起きています。2017年7月には九州北部豪雨がありました。2018年7月には西日本豪雨があり、愛媛県の肱川での被害については
ハーバービジネスオンラインで詳しくレポートされています。2019年9月には、台風15号・19号によって大きな被害が出ました。この2020年7月にも、豪雨で球磨川水系を中心に多くの方々が被害を受けています。
これら多くの風水害に共通するのは、
想定外というキーワードです。2019年の台風15号は、史上最強の「スーパー台風」と呼ばれました。また、上記ハーバービジネスオンラインのレポートからは、従来のダムに依存した治水対策が、想定外の豪雨や台風に十分対応できていないことも分かります。それどころか、ダムが被害を大きくしている可能性すら指摘されています。
こうした
想定外の風水害リスクも、気候変動によって高まると予測されています。上記「気候変動適応計画」は、想定を上回る風水害が頻発し、大幅に上回る風水害が発生する懸念もあると指摘しています。
いわば、わたしたちは「感染症と災害の時代」に突入しつつあるのです。
新型コロナウイルスの猛威が収束しないのは、ワクチンなどの有効な医療的対策が確立していないことに加え、
現代の社会システムに要因があります。新型コロナウイルスに限らず、感染症の拡大を防止するには、人から人への感染を抑えることが有効です。すなわち、人と人の接触機会をできるだけ減らすことが求められます。一方、現代社会は、製品・サービス(自らのもつ何らかの価値)を交換し合うことで、自らの生計を維持しています。つまり、人と人との接触で成り立つ社会です。
人と人が接触することで成り立つ社会であるのに、感染防止は接触抑制を要するのです。そのため、接触抑制が長期にわたると、感染症で命を害するのか、接触抑制で命を害するのか、二者択一に否応なく追い込まれます。
これは、
経済活動と感染防止がトレードオフの関係にあると示しています。トレードオフとは「複数の条件を同時にみたすことのできないような関係」(大辞林)のことを意味します。例えば、国からの給付金10万円をパソコン購入費用に充てれば、その給付金10万円を旅行費用に充てることができなくなります。この場合のパソコンと旅行がトレードオフの関係にあるといいます。
そして、1980年前後から世界に拡大した
新自由主義経済が、経済活動と感染防止の両立をさらに困難なものとしています。新自由主義とは、人々の生活を支える政府のルールや仕組みを徹底的に縮小・廃止して企業の供給に委ねれば、企業と人々の競争が加速して効率的な供給が実現し、誰もが豊かになるとの経済思想です。実質的な元祖は、ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマン(1912-2006)です。イギリス・サッチャー政権、アメリカ・レーガン政権、日本・中曽根政権などに影響を与えました。
新自由主義経済では、企業・人々の交換活動を究極まで盛んにすることを重視しているため、接触抑制を重視する感染防止と真っ向から対立するのです。経済思想は新自由主義に限られませんので、すべての経済活動が感染防止と対立的といえるわけではないのですが、少なくとも感染防止ともっとも対立的な経済思想が新自由主義とはいえるわけです。
そして、新自由主義経済は、交換活動の盛んな状態すなわち
「好景気」を常態化させることで、人々の生活が維持されると想定しています。不景気を「競争と交換の不足」と捉え、活発化しようとさらに規制緩和と民営化を推進します。実際、政権によって程度やスピードの違いはあるにしても、80年代以降、日米英を中心に多くの国々が新自由主義経済を採用してきました。
その結果、
永遠の好景気が多くの人々にとって生存の前提条件になってしまいました。経済指標がどれだけ好景気を示していても、自らの生活が苦しいのは「景気が悪いせい」と考えざるを得なくなったのです。消費税や環境税など、交換活動を阻むように見える仕組みを人々が敵視するのは、やむを得ない状況ともいえます。
けれども、
感染症リスクの高まりは、結果的に交換活動の抑制を要します。リモートワークやオンライン販売などによって多少は両立しつつリスク軽減できるにしても、人と人の接触はあらゆる機会に及ぶため、完全な両立は極めて困難です。
つまり、好景気に依存する社会をつくってきた結果、経済活動と感染防止のどちらを重視しても、命の危険につながるジレンマに陥っています。