無印良品が「水道水を配布」?――その真相は無印の新たな「ライフスタイル提案」だった

「水ボトル」と「水アプリ」で始まる新たなライフスタイル

 さて、それではなぜ水を配り始めたのか。無印良品は給水サーバーの設置を「持続可能な社会への実現のため」であるとしており、給水サービスを通してプラスチックごみの削減に繋げたい考えだという。  もちろん、無印良品は「ただ水を配っているだけ」ではない。水を配ることによる集客を見込んでいるであろうことは言うまでもないが、それ以外にもこれに合わせていくつかの「新商品」を販売している。  その1つが「水」と書かれたシンプルな「自分で詰める水のボトル」(空のペットボトル、税込190円)。ボトルの容量は330ミリリットルで、黒いキャップに大きく「水」と書かれたデザインはいかにも無印良品らしく、どこかオシャレな雰囲気さえある。  このボトルは一般的なペットボトル飲料と異なり薄くてスリム。ハンドバッグや大きめのポケットにも入れることができる。また、口も一般のペットボトルよりも少し広めであり、水をそそいだり、また洗ったりする際にも便利なものとなっている。  単に水を入れるためのペットボトルであれば、一般の飲料などに使われるものがもっと安く提供できるはずだ。そうしたなか、わざわざこうした「オシャレな専用ペットボトル」の販売をおこなうことから、無印良品は単に「水」を提供したいだけではなく、マイボトルを持ち歩くということ自体を「無印良品発のオシャレなライフスタイルとして定着させたい」という同社の意気込みを感じることができる。
無印良品の「自分で詰める水のボトル」

スタイリッシュなデザインの「自分で詰める水のボトル」。
(画像:無印良品)

 そしてもう1つの新商品が水に溶ける粉末タイプのお茶だ。お茶は「ルイボスティー」と「黒豆茶」を選ぶことができ、それぞれが300ミリリットル用×10袋で税込390円。こうした「マイボトルの水を好きな味にアレンジして持ち歩く」というのも、無印良品が提案する新しいライフスタイルであるといえるだろう。  このほか、給水機の近くにはステンレス保温保冷マグ(水筒)の売場も見られたほか、給水機の横には壊れた際にペットボトルを回収してもらうための籠も設置されていた。
回収籠

壊れたり汚れた水ボトルは回収籠へ。
無印良品では化粧水などその他のペットボトル製品のボトル回収もおこなっているが、そうしたものもここに入れることができる。

「水アプリ」で持続可能な社会への意識を高める

 さて、今回の「給水機設置」に合わせて始まったもう1つのユニークな取り組みが、無印良品によって新たにリリースされたスマートフォン向け「水」アプリによる情報提供だ。  このアプリは「水」という名のシンプルなもので、給水することで削減できた「ペットボトルの廃棄量」や「二酸化炭素排出量」を確認することができる。
「水」アプリ

無印良品の「水」アプリ。今回の筆者の給水量は300ミリリットル。
給水したことをSNSでつぶやくこともできる。

 満を持して始まった無印良品の「水道水提供」という名の「新たなライフスタイル提案」。  2020年7月時点での給水器設置店舗は銀座店や難波店など、大都市の大型店を中心とした113店舗のみであるが、今後2020年度末までに設置店舗を400店舗にまで拡大する計画で、「水」アプリでは無印良品に加えて一部の他企業や公共施設などの「給水機設置場所」を確認することもできる。  温暖化による熱中症予防対策が叫ばれるなか、将来的にはこうした「水の無料提供」があらゆる施設へと広がり、「給水場所をアプリで確認する」「マイボトルの水を好きな味にアレンジして持ち歩く」というライフスタイルがごく当たり前のものになるかも知れない。  この夏は「水アプリ」で給水機の設置場所を確認して「新たなライフスタイル」を体験し、そしてどれだけエコに貢献できるか挑戦してみてはどうだろうか。
「水」アプリ

「水」アプリでは全利用者のペットボトル・二酸化炭素の総削減量も確認することができる。
数字は7月8日時点のもの。「1,4トン」は日本人の1人あたり年間二酸化炭素排出量の7分の1ほどに当たる。果たしてこの夏どこまで伸ばすことができるだろうか。

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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