ダムが洪水・地震を引き起こす!? 大災害が起きる前に「ダムに頼らない社会」を

水深の深いダム湖が引き起こす「ダム誘発地震」

黒部ダム

黒部ダム

 イタリアのバイオントダムの事故は日本に示唆的だ。これは切り立った山を利用して建てられ、水位が400mを超すような深いダムだ。ところがダム湖に水を入れ始めると、地域に群発地震が起きた。  施主の電力会社は政府や御用学者に相談したが、「水位とは関係ない」との答えだった。そのためさらに水を貯水していった。そして水位をさらに上げると、周囲の山が地滑りを起こし、湖面に崩れ落ちた。落ちた山は「山津波」を起こし、山津波はダム堤を150mも高く超え、麓の村を人口約2000人以上とともにすべて流し去った。  ダム湖の深さが100mを超えると、湖底には11気圧を超える圧力がかかる。それによって地震を引き起こしたり、逆に水の接着効果で安定させたりする。このような地震のことを「ダム誘発地震」と言い、国際的には常識になっている。  しかし、日本でだけはさまざまな「ダム誘発地震」を認めていない。他国と比べると超巨大な貯水量を持つダムが少なく、他の地震の要因もあり区別が明瞭でなく、他の要因の地震と区別しにくい点もあってごまかしたままだ。  意外なのは、日本でダム誘発地震の可能性が高いのが「黒部ダム」で起きた群発地震であることだ。黒部ダムは1963年に完成した総貯水量2億トン、高さ186mあるダムだが、2016年8月末から400回を超える群発地震を起こした。  ダムと地震との関係では、深さが100mを超えるダムで水深を上下させた時に起こることが多く、ダム湖底の地盤につながる浅い地層で起こることが多い。総貯水量よりも水の気圧に大きく関係するのが水深であり、大きなダムであることよりも水深の深いダムであることが影響する。  中国で起きた8万人の犠牲者を出した四川大地震もまた、「紫坪鋪(しへいほ)ダム」により地震が誘発されたのではないかと疑われている。位置的に長江に近い。そして紫坪鋪ダムの堤高は堤高156mで、三峡ダムは146mとなっている。地質も変わりなく、同様のダム誘発地震の危険がある。

地震によって、八ッ場ダムが貯めた大量の水が都心部へと流れ落ちる!?

八ッ場ダム

八ッ場ダム

 バイオントダムのような事故は日本でも起こり得る。例えば八ッ場ダムの周囲は同じ高さの山に囲まれている。これは浅間山の噴火による土砂が積もった地域を、長年の間に水が渓谷を刻んだからだ。
黒川第一発電所周辺の地層

黒川第一発電所周辺の地層。黒川第一発電所の復旧可能性に関する評価委員会「黒川第一発電所の復旧可能性に関する評価委員会報告書」(2019年10月)より

 その場合、地層は火山灰と火山堆積物のミルフィーユのような構造になる。火山灰の粘土質は水を通さないが、他の火山堆積は水をよく通す。すると、水位がダムから上に登って、粘土層に入り込むとその上だけを滑らせる。これは九州の阿蘇山も同じで、2016年に阿蘇大橋が崩落したが、その時も同じ仕組みで起きている。  ただしその時は事前に大雨は降っていない。そこには九州電力が持つ百年前からの黒川第一発電所の水路が通っていて、地震で即座に断裂して20万トンもの水を流出させていた。地層はミルフィーユ状になっていて、この水を通したり通さなかったりする地層の間を、20万トンの水が滑っていったのだろう。  この時は熊本の地震が引き金となったが、八ッ場ダムでも同様のことを心配して観測井(かんそくせい)を掘って常に水位の程度を確認している。ここに水が入れば、阿蘇大橋の時のように山を斜面ごと滑らせてしまうからだ。残念なことに八ッ場ダムの貯水量は多く、それはそのまま都心部へと流れ落ちる位置にある。
完成前の八ッ場ダムに立てられていた看板

完成前の八ッ場ダムに立てられていた看板

 もうダムは解体すべき時期だと思う。三峡ダムばかりでなく、建設を止めて解体を始めているアメリカに学び、もはやダムに頼らない社会にすべきだ。しかし困ったことに、日本では必要性のないダムを中国同様“利権のため”に建設している。
石木ダム

石木ダムが造られようとしている石木川

 特に馬鹿げているのは、長崎県に未だに作られようとしている「石木ダム」だ。「佐世保市に水を引くため」と言うが、佐世保市はとっくに人口減少していて水消費量も減り続けている。「川の増水を防ぐ」と言うが、ダムが造られようとしているのは川棚川の支流で、この下流域には人口集積地はない。せいぜい川の堤防を強化すれば足りるのだ。  これを見ていると中国を笑うこともできない。私たちは愚かさのせいで知らず知らずのうちに危険を抱え、無駄なダムさえ止められずにいる。   「ダムは無駄」なのだ。 【「第三の道」はあるか 第4回】 <文/田中優 写真/横田一>
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。 著書(共著含む)に『放射能下の日本で暮らすには? 食の安全対策から、がれき処理問題まで』(筑摩書房)『地宝論 地球を救う地域の知恵』(子どもの未来社)など多数
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