事業者はウェブサイトだけで「酸素濃度は1.5~6.4%」と公表
これに驚いた外環計画に反対する市民団体のひとつ
「外環ネット」は、事業者に工事の中止と住民への説明を求めた。しかし事業者は住民にも自治体にも説明することなく、8月24日、またもウェブサイトだけで、
その気泡の酸素濃度がわずか1.5~6.4%しかないということを公表した。
外環計画に反対する市民の有志は、2017年12月に、
「補償も交渉も不要」とした大深度法の違憲性を訴える裁判――「東京外環道大深度地下使用認可無効確認等請求事件」――を起こした。その裁判を支援する「東京外環道訴訟を支える会」の籠谷清さんは、この低すぎる酸素濃度に衝撃を受けた。
「
これは、一息吸えば即死するレベルの酸欠濃度です。数mも離れれば空気で希釈されるのは事実としても、問題はほかにいくつもあります。一つが、事業者は掘削開始前の2017年2月の『シールドトンネル工事の説明会』で、
「大深度の工事だから地表には影響がない」と明言していたのに、それが崩れたこと。
籠谷清さん
もう一つが、こういった問題を私たち住民に一切伝えなかったこと。つまり、
今後、土壌汚染や地盤沈下などが起きても放置されるのではないのか。そして今回は川でしたが、
この酸欠空気が一般家屋の地下室や古井戸などに漏れても、知らん顔をされるのではないかという恐れがあります。そしてこれは、
実際に地下で働く方々の命に関わるのではないか? ということです」
厚生労働省資料「酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害発生状況」より
だが、事業者は気泡が出ても
「環境への影響はない」として、その後も工事を続行した。ところが、この気泡問題はこの時だけに留まらなかった。
黄色い破線のうちの左側が、気泡事件が発生している工事区域(東京外環プロジェクトのウェブサイトより)
2019年6月13日、第19回 東京外環トンネル施工等検討委員会は、
「室内試験の結果、添加材の調整で漏気(気泡発生)が抑制できることを確認した」と公表した。ところが2か月後の8月19日から9月4日にかけて、練馬区の白子川に最小値で酸素濃度7.3%の気泡が発生した。
この事実もウェブサイトだけで、発生から17日も経った9月5日に公表され、しかも公表時には現場は白いビニールシートで覆われて視認が難しい状況になっていた。
これに対して、前出の籠谷さんら住民は憤る。
「それまで事業者は、漏気は『想定外』と説明していました。実際に気泡が出てくると、『漏気は抑制できる』と言う。再び気泡が発生したら、こんどは『影響はない』との安全宣言をする。まったく信用できません」(籠谷さん)
籠谷さんは時間のある限り、ほぼ毎日野川を歩き、異変がないかを確認している
そして今年3月7日、またしても野川で気泡が発生した。野川沿いをほぼ毎日のように歩いて環境の変化を確認していた籠谷さんが発見した。当日、シールドマシンは野川から数十mの地下を川に沿うように掘進していた。この気泡は筆者も5月下旬に確認している。
市民団体が発行する機関誌には、地下から地上に気泡=酸欠空気が上がってくる様子が描かれている(東京外環道訴訟を支える会の機関誌より)
この計3回の気泡発生事件において、市民団体は事業者に
「気泡の成分は?」「川以外の場所での漏気はあるのか?」「環境に影響がないと言える根拠は?」などの質問状を何度も送っているが、まともな回答が返ってきたことがない。
「このままでは住民の生活が危ない」。そう判断した籠谷さんを含む13人の住民が、従来の裁判とは別に、5月27日に「工事差し止め」を求める仮処分申請を東京地裁に起こしたのだ。