拡大する米国のBLM運動。IT業界への知られざる影響とは?

言葉の急激な変化の危うさと、慎重な議論の必要性

 言葉は、単独で成立しているわけではなく、その背景に歴史があり、他の単語と密接に関係している。そのため、安易な置き換えは社会的な混乱を招く。  誕生当時には問題がなかった言葉でも、文化的、社会的な背景が変わり、意味が問題視されるケースも多い。たとえば、日本語で言えば「嫁」という言葉が「女が家にいる」という漢字であるために問題視されるケースがある。また、夫を意味する「主人」という言葉が、女性が男性の従属物であることを想起させるために相応しくないとされるケースがある。  こうした言葉は、社会的な要請が強ければ、徐々に置き換えられていく可能性がある。あるいは、成立当時の背景が希薄になったという理由で、問題視されなくなる可能性もある。  言葉は生き物であるので絶えず変化を続ける。ある対象を指す言葉が変わることもあれば、言葉が指す対象が変わることもある。場合によっては時間を経ることで180度意味が変わるケースもある。  ただ、あまりにも急激な変化は、社会を混乱させる。特に、技術用語のように全員が共通の意味を指して使う言葉は影響が大きい。  プログラムでは、大きな変更が入る場合は、メジャーバージョンアップとして、過去との違いを明確にする。そして、周囲に大きなコストを払ってもらう。言葉の変更も、それと同じぐらいのコストを周囲に払わせることになる。  言葉の変更は、慎重な議論を経て、適切なタイミングでおこなうべきだろうと感じる。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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