リニア工事再開を求め静岡県知事と会談、JR東海が急ぐ「2027年開通」が不可能な理由

知事は「準備工事の総面積が5ha超なら、協定締結が必要」と回答

市民団体のメンバーたち

川勝知事と金子社長とのトップ対談を前に、県庁前でリニア計画の反対を訴える市民団体のメンバーたち

 リニア工事には以下の2つがある。 1.準備工事 宿舎建設、ヤード整備、雨水排水施設等々、トンネル工事の前段階となる工事 2.本体工事 いわゆるトンネル掘削、そしてそれに付随する工事(非常口掘削、濁水処理施設、沈砂池建設等々) 「本体工事」については、現在「連絡会議」でのJR東海と県との一致点が見出されていない以上、始められるものではない。  また「準備工事」のうち宿舎建設などは2018年9月に始まっていたが、翌2019年5月、ヤード整備の一部が本体工事に直結するのではとの県の判断で、準備工事は中断している。今回の対談は、金子社長がその準備工事の「再開」を目指したものだ。  約1時間20分の会談中、金子社長は何度も「ヤード整備をさせていただけないか。なし崩し的にトンネル工事をすることはありませんから」と知事に打診した。知事ははっきりと「反対」とは言わないものの、「準備工事の総面積が5haを超えるのなら、県条例に従って協定を結ばなければならない」と回答した。  これは逆に言えば、5ha未満なら協定は不要ということ。そして実際、2018年にJR東海が始めた準備工事の総面積は4.9haである。おそらく準備工事を再開すれば、残り0.1haは確実に超える。ということは協定締結が必要になる……と知事は回答したのだ。  一方で、川勝知事は「リニアに反対していない(これは、知事だけではなく県としての従来からの姿勢)。その一方、命の水も守る。これは両立したい。JR東海と私たちは運命共同体です」とも発言した。
会談後に囲み取材に応じる金子社長

会談後に囲み取材に応じる金子社長。幹事社の質問のあとは、たった1問だけ受けて帰った

 金子社長は閉会後の囲み取材で(幹事社以外の質問はわずか1問受けつけただけで帰ってしまったが)、幹事社の「6月中の工事再開へのスケジュールはあるか?」との質問に「条例をクリアして協定を結べば工事を認めてもらえる。県とは時間を置かずに確認したい」と回答した。  知事も「5ha以上の工事には協定が必要だが、4.9haではご自由にどうぞということです」と、準備工事再開への明確な説明をしなかった。

「本体工事と一体化するヤード整備は認めない」と知事が明言

囲み取材に応じる川勝知事

囲み取材に応じる川勝知事

 この囲み取材のあと、条例や協定について「くらし・環境部」から説明があった。条例は、正確には「静岡県自然環境保全条例第24条」。これに基づき、5ha以上の土地の改変には「自然保護協定」の締結が必要だとの内容だった。  ここで記者団から出た質問は、「知事が協定の説明を強調した印象がある。つまり金子社長は、その手続きさえ踏めば、準備工事をさせてもらえると思って帰ったのではないのか」ということだ。知事には「くらし・環境部」から事前に情報提供もあったが、職員の田嶋氏は改めて「県としては、本体工事と一体化となるヤード整備は認めない」と説明した。  筆者が受けた印象では、知事は会談で金子社長の要請をのらりくらりとかわし、遠回しに「NO」を言ったつもりだった。だが記者たちは、知事の会談での発言は金子社長に「準備工事はできるんだ」との誤解を与えた可能性もあるとして、再度の知事会見を要請した。つまり、「知事の口からはっきりと『再開工事は認めない』と言う必要があるのでは」と。  筆者は、これは後日行われるものだと思い、すぐに県庁を後にした。あとで知ったことだが、「くらし・環境部」はその後すぐに知事にアポを取り、1時間後に、2回目の知事会見が実現したという。そこで知事ははっきりと「本体工事と一体化するヤード整備は認めない」と明言したのだ。

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「連絡会議」参加に応じようとしないJR東海

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