リニア工事再開を求め静岡県知事と会談、JR東海が急ぐ「2027年開通」が不可能な理由

リニア工事の早期再開を求めてJR東海社長が静岡県知事と会談

山梨県のリニア実験線

山梨県のリニア実験線(将来の本線を兼ねる)

 2020年6月26日、静岡県庁で川勝平太知事とJR東海の金子慎社長とのトップ会談が実現した。これは「全面公開」として地元テレビでも生放送された。 「会いたい」と言い出したのはJR東海のほうからだった。  その目的はただ一つ。「6月中に静岡県内でのヤード(作業基地)工事を認めてほしい」というものだ。そうすれば、念願の2027年リニア中央新幹線開通(東京・名古屋間)に間に合うから……と。
トップ会談に臨む金子社長を案内する川勝知事

トップ会談に臨む金子社長を案内する川勝知事

大井川の水量問題に無回答のまま要求するJR東海

 だが、会談の結論から言えば、知事はこれにゴーサインを出さなかった。その理由はいたって簡単だ。  2013年10月、JR東海はリニア計画沿線で環境アセスメントをした結果である「環境影響評価準備書」を公開した。静岡県民が驚いたのが、県北部の南アルプスでトンネル掘削工事をすれば、大井川の水量が「毎秒2トン減る」とJR東海が予測したことだ。これは大井川を水源とする中下流域の8市2町62万人分の水利権量に匹敵する。  2014年から、静岡県、JR東海、そして専門家で構成した「中央新幹線環境保全連絡会議」(以下、連絡会議)では、いかにして失われた水を大井川水系に戻すかが話し合われている。だが5年経っても、JR東海は未だにその決め手を提示できない。この状況で知事が首を縦に振るはずがなかった。
オンライン会議

2020年6月16日に開催された、静岡県知事(左から2番目。マスクをしている)と大画面に映る8市2町の首長らとのオンライン会議(川勝知事は一番上の左端)。ここで、JR東海の金子社長との会談開催が決まった

 今回の結論はある程度予測できた。というのは、10日前の6月16日、川勝知事は県の8市2町の首長たちとオンライン会議を実施した。その場で首長たちから「私たちの思いを金子社長に伝えてほしい」との要望があったからこそ、会談実現に踏み切ったからだ。  この8市2町、県の事務方(くらし・環境部)、そして「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」(以下、連絡会議)に参加する専門家たちとの間でこの5年間積み重ねてきた議論は、「県民の水を守る」との点で一致していた。この“オール静岡”の力を知事は無視できない。というよりも、知事はそれに従わねばならない。  さて、このトップ会談にはざっと60人ほどのメディア関係者が押し寄せ、実際、当日か翌日には報道されている。ここでは、このトップ会談を巡ってあまり報道されていないことを伝えたい。
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準備工事の総面積が5ha超なら、協定締結が必要
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