買収騒動に揺れた「大戸屋」、株主が選んだ答えは「効率よりも味」

効率を取るか、味を取るか…選択を迫られる飲食店

 こうした「調理の効率化」による業績の拡大を狙った飲食チェーンは数多くある。「長崎ちゃんぽん」で知られる「リンガーハット」もその1つだ。  リンガーハットは2005年から2007年にかけてほぼ全店舗をオール電化にし、麺や具材、スープなどをセントラルキッチンで半調理された冷凍のものへと切り替えた。また、調理器具の自動化も進め、これにより、どこの店で誰が調理しても同じ味のちゃんぽんを以前よりも短時間で提供することができるようになった。  一方で、これまでの「中華鍋で生野菜から炒める」という「伝統的なちゃんぽん」と同じ調理スタイルに慣れた客からは「元の作り方のほうが本格的で美味しかった」という声が多く聞かれるようになり、「調理の効率化」直後は業績が悪化。効率化による業績の拡大をめざしたにも関わらず、2009年2月期通期には約24億もの赤字を計上することとなってしまった。
リンガーハットのちゃんぽん

「国産野菜たっぷり」で人気のリンガーハットのちゃんぽん。
当初はかつての味を知る客から「物足りない」という声が上がるなど客離れを起こしたが、効率化から数年後には大きく業績を伸ばすこととなる。

 大戸屋HDは株主に対して5月に送付した「議決権行使に関するお願い」に続いて、6月に大戸屋の「素材」と「店内調理」のこだわりに関する葉書を送付するなど、コロワイドによる買収とセントラルキッチン導入などによる調理の効率化に対する異議を唱え、コロワイド側の株主提案に反対するように呼び掛けた。  その思いが伝わったのか、6月25日の株主総会では議決権を行使した株主のうち約7割が大戸屋側に賛成。大戸屋HDの株主の多くは大戸屋の味に親しんでおり「現在の手法を変えて欲しくない」という思いが強かった、といえる結果となった。  もう1つ、株主が大戸屋側につく大きな要因となったと思われるのが、コロワイド側が提案した「取締役候補者」の内容だ。実は、コロワイド側が提案した取締役候補者のなかには、現経営陣と対立関係にあった創業者の息子・三森智仁氏が含まれる。智仁氏が再び大戸屋HDの役員となることで起きる可能性がある「再度の御家騒動」を望まない株主が多かったことも、大戸屋側にとって有利にはたらいたのではないだろうか。
大戸屋が株主に対して送った「当社の目指すべき姿」

大戸屋が株主に対して送った「当社の目指すべき姿」。
株主優待制度の拡充も謳われている。

業績次第では先行きはまだわからない

 一方で、コロワイド側はこれによって「大戸屋の買収を完全に諦める」ということにはならないであろう。先述したとおり大戸屋の業績は悪化が続いており、これ以上の赤字が続くならば「効率化も止む無し」と思う株主が増えることも予想される。  先述したリンガーハットは、2000年代の調理の効率化後には客離れを起こし業績が大きく悪化したものの、効率化は客の待ち時間の短縮・回転率の向上にも寄与することとなり、さらにオール電化により都市部の狭小店舗やスーパーマーケット等のフードコートへの出店も容易なものとなったため、店舗網を大きく拡大。野菜の国産化によるイメージ向上もあって、2020年2月期の売上高は約458億円と、効率化前の2005年ごろ(350億円台)よりも大きく伸びている。  もちろん「昔の中華鍋を振っていたリンガーハットの味も懐かしいなあ…」と思う客は少なくないであろうが、約15年前の効率化はリンガーハットにとって成長を遂げるきっかけの1つになったといえる。  大戸屋は創業地である東京を中心に多くの店舗を展開しているものの、首都圏外ではまだまだ空白地帯も多く、大阪市ですら僅か3店舗のみだ(2020年現在)。出店地域の拡大を図るには、全国各地で様々な業態の店舗を持つコロワイドのノウハウや、同社が全国各地に持つセントラルキッチンを活用したほうが経営効率がいいことは明白である。  果たして、「手作りにこだわり続ける」という大戸屋HDの選択は正しいものとなるのかどうか――コロナ禍後の大戸屋の業績と、コロワイドの更なる一手に注目が集まる。 <取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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