買収騒動に揺れた「大戸屋」、株主が選んだ答えは「効率よりも味」

大戸屋、業績悪化で窮地に……。コロワイドによる再建に「NO」

 御家騒動を切り抜けた大戸屋であったが、業績の悪化は止まらず、2018年から2019年にかけて商品の値上げを実施。しかし、値上げによる客離れを引き起こしたうえに「御家騒動」によるイメージの悪化もあって2019年度中間期決算では上場以来初の赤字に転落した。巻き返しを図るべく臨んだ2019年後半にはサンマの不漁により看板メニューである「生さんまの炭火焼き定食」が販売延期となり、さらに2020年には新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけるかたちで、2020年3月期通期(連結決算)は11億4700万円の最終赤字に転落することとなってしまった。
生さんまの炭火焼き定食

大戸屋の期間限定メニュー「生さんまの炭火焼き定食」。
毎年秋に楽しみにしているという人も多いであろう。

 大戸屋HDの筆頭株主となっていたコロワイドは、大戸屋を買収して経営の立て直しを図ることをめざした。コロワイドは6月25日開催の大戸屋HDの株主総会において現在8人の取締役を12人に増やし、そのうち7人はコロワイド側とする株主提案を提出。しかし冒頭で述べた通り、これは否決されてしまうこととなった。 「飲食チェーン再建のプロ」として知られるコロワイドの提案は一体なぜ受け入れられなかったのであろうか。

大戸屋に「調理方式の合理化」を提案していたコロワイド

 コロワイドは1963年に創業。1977年に現在の主力業態の1つである居酒屋「甘太郎」の1号店を開店させた。居酒屋を祖業としながらも、2000年代以降は全国各地の多様な業種の飲食チェーンを次々に傘下に収めており、2020年現在は回転寿司の「アトム」「かっぱ寿司」、ステーキファミレス「ステーキ宮」、焼肉「牛角」、ハンバーガー「フレッシュネスバーガー」など、様々な有名チェーンがコロワイドの傘下となっている。それらの多くは経営再建の過程でコロワイドの傘下に入ったもので、同社が「飲食チェーン再建のプロ」といわれる所以でもある。  一方で、コロワイドの蔵人金男会長は2017年には牛角を運営するレインズに対し「生殺与奪の権は、私が握っている」とした文章を出すなど、経営再建に関わる企業に対して厳しい態度を採ることでも知られていた。
かっぱ寿司

かつての回転寿司業界で国内1位であった「かっぱ寿司」。コロワイド傘下で再建を行う。
海外展開をおこなっているのは大戸屋も同様だ(釜山市の店舗)。

 コロワイドは大戸屋に対して、業績の立て直しのため工場で半調理した食品を各店舗に配送するというセントラルキッチン方式への転換などといった調理方式の合理化を提案。しかし、大戸屋は店内調理でできたてを提供することを社是としており、セントラルキッチン方式を採る多くのファミリーレストラン等との差別化によって成長を遂げてきた企業だ。そのため同社の経営陣は「調理の効率化」に猛反発。窪田社長が5月25日に開いた記者会見で「大戸屋の最大の差別化要因である『店内調理』という強みは絶対に変えない」と発言するなど、対立が深まっていた。  さらに、株主総会を前にした5月ごろからは、現経営陣とコロワイドの双方が大戸屋HDの株主に対して「議決権行使に関するお願い」を送り合い、さらに株主に対して個別に電話をかけるローラー作戦を行うという異例の事態へと発展していた。
議決権行使に関するお願い

大戸屋とコロワイドの両者による「議決権行使に関するお願い」。

次のページ
効率を取るか、味を取るか
1
2
3