アメリカの黒人ラッパーと日本人DJ&ビートメイカーがBlackLivesMatterを支援するチャリティシングルを出すに至ったワケ

DJ中の筆者

DJ中の筆者

始まりは、日本人ゲームデザイナーが手掛けたゲーム

 2019年にNintendo Switch,PS4,PCで発売されたビデオゲーム「Trivis Strikes Again:No More Heroes」(以下TSA)、僕はこの作品の音楽プロデュースを務めさせてもらいました。  このゲームは、須田剛一さんというゲームデザイナーが手がけた作品で、日本の作品ながら海外での認知度がとても高い作品です。そしてこのゲームはメジャータイトルながらも、様々な世界中のインディゲームとコラボレーションしている意欲作でした。そこで僕も音楽プロデューサーとして、海外に向けて日本のインディミュージックの中でも飛び切り濃いところを世界に向けて提示したいと考えました。  ゲストミュージシャンとして参加してくれたのは、かつて東京に存在したマイノリティのるつぼのようなDJバー、アシッドパンダカフェに集っていた高野政所、Doramaru.、メテオ、丸省、Totsumalといったミュージシャンやラッパーたちを中心に、はたまた武道館でもワンマンライブを行うガールズパフォーマンスユニット9nineの佐武宇綺、坂本真綾のアルバムにも参加するシンガーソングライターの古川麦、Aphex Twinもその曲をプレイする日本が誇るUKGアーティストPrettybwoy,サックス奏者のYocotaSax. 日本の伝説的ブレイクコアアーティストCDRなど異様に味の濃いラインナップを詰めに詰め込んだサウンドトラックになっています。そうそう、中には我衆院達也(Ex.若人あきら)をラッパーとして起用した曲なんてのも収録されています。  ちなみに余談ですが、高野政所が店長をつとめ、かつて東京の地下で数多くのマイノリティたちを受け止め、様々なサブカルチャーのクロスポイントになっていたアシッドパンダカフェは、このコロナ禍をきっかけにWEB上にサイバーアシッドパンダカフェとして復活を果たしたので、興味がある方は足を運んでみてはどうでしょう。  とにもかくにも、その結果、このサウンドトラックは海外の物好きゲーマーたちに異様に刺さる結果となったのです。僕は彼らとより深いコミュニケーションをとってみたいと考え、機械翻訳バリバリの英語で発信するTwitterアカウントを作成しました。  僕の海外向けTwitterを、海外の須田剛一氏とTSAのファンたちは次々とフォローしてくれました。そこで気づいたことは、須田剛一氏のゲームのファンコミュニティには多種多様なカテゴリーのマイノリティたちが集っているという事でした。様々な人種がいるのはもちろんの事、同性愛者、トランスジェンダー、ケモナー、その他様々な特殊な嗜好などなど。彼らのフォローを返すだけで、多様性にあふれたタイムラインがすぐに出来上がりました。ちょうどその頃からどんどん世知辛さを感じるようになった日本語アカウントの方のTwitterに比べて、仙台の七夕祭りの画像をアップロードしたら「俺の近所にも似た祭りがあるぜ!」とスペインからトイレットペーパーぶん投げ祭りの画像が投稿されるような、ほのぼのとしたそれは、僕にとって日常のオアシスのような存在にもなりました。
トイレットペーパーぶん投げ祭り

七夕まつりの写真を投稿したら、「俺のところにも似た祭りがあるぜ!」と投稿されたトイレットペーパーぶん投げ祭りの写真

日本発の曲がアメリカの黒人デュオにサンプリングされた

Okumura.

Okumura.の2人。日本の漫画「青の祓魔師」に登場する奥村兄弟が名前の由来

 そして、ある日、TLにとんでもない物が飛び込んできました。なんと僕たちが作ったTSAのサウンドトラックを勝手にサンプリングしてラップを乗っけてリリースしている黒人グループがいるじゃないですか!それがワシントンDCとデトロイトにそれぞれ在住している黒人兄弟2人組ヒップホップデュオ「Okumura.」との出会いでした。なぜワシントンDCとデトロイド在住のアフリカ系アメリカ人なのにオクムラ、なんて名乗ってるのかというと、日本の漫画「青の祓魔師」に登場する奥村兄弟からとっているのだとか。  バレるとこにバレたら怒られる事必至なアルバムではありますが、彼らのラップのスキルは確かだし、サンプリングもセンス良く使って新しい魅力が生まれていて、誤解を恐れずいうと非常に「作品」となっていました。そもそも僕のほうが今まで散々黒人の音楽をサンプリングしてビートを作っていたわけで、黒人にサンプリングされる側になるというのも不思議な感じがしましたし、正直、嬉しかったです。それこそ、ゲームの実績が1つ解除されたような気持ちになりました。  彼らの作品をきいて、それが愛のあるサンプリングなことは凄くよくわかりました。なので、むしろ彼らと積極的に仲良くすることにしました。勝手にサンプリングされたことがきっかけですが、公式にコラボレーションして曲をリリースする事にしました。手始めに2020年の1月に、彼らの「Cyber Truck」という曲を僕がリミックスしてデジタル配信リリースしました。
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コロナ禍中の生活をテーマにした作品を作っていた矢先に…
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