IUCNが公表した、沖縄のジュゴンについての包括的な生息調査計画の提案書
昨年12月、IUCNは沖縄のジュゴンについて包括的な生息調査計画の提案書を公表した。調査計画策定のために、IUCN「種の保存委員会」海牛類専門家グループは、国内外の専門家による作業部会を昨年9月に開催した(環境省からも1名がオブザーバーで参加)。
国内で唯一ジュゴンを飼育する鳥羽水族館(三重県)が会場を提供し、辺野古新基地建設によるジュゴンへの影響を注視してきた米国海洋哺乳類委員会が経費を提供した。日本政府、沖縄県、NGO(非政府組織)などが研究・調査活動を行う際に参考となるようにまとめられた。
調査計画では7つのプロジェクトが提案されている。特筆すべきは、
沖縄のジュゴンの個体数は極めて少ないため、生息有無を判断するためには下記の通り多角的な調査活動が不可欠であるとしている点だ。
【即時実行】
1.漁業者にヒアリング:ジュゴンの分布と豊度を知る
2.スマホアプリ作成・応用:市民参加型のジュゴン/海草食み痕の発見例の報告・記録の仕組み作り・応用
【即時準備】
3.環境DNA(生物体から遊離・放出され水中に浮遊するDNA)調査:ジュゴンの存否確認
4.ドローン調査:ジュゴン、海草および食み跡確認
5.鳴音探索
【なるべく速やかに】
6.海草生育地の現状把握
7.ジュゴン保護の重要性を人々に広める
そしてジュゴンの生息が確認された場合、2回目の作業部会を実施し、保護活動を主導するために主要な利害関係者を含めて開催される、としている。
詳細は和訳でも公開されている。
前出の「ジュゴン保護キャンペーンセンター」吉川さんは、この作業部会に日本のNGO(非政府組織)として参加した。今後に求められることとして次のように強調した。
「IUCNが提案した多角的調査活動を、より広域に実行していくことが必要です。NGOももちろん関わりますが、環境省や沖縄県が中心となるべきでしょう。そして、調査で得られた情報を適時にまとめてIUCNに報告することが重要です。例えば、NGOは大浦湾のジュゴンの鳴音についてIUCNにすでに報告していますが、国や県からも報告すべきであり、それぞれの見解の提示も必要です」
ポストコロナ時代は人間と野生生物との関係も変わる!?
今年4月、タイ南部の海で30頭以上のジュゴンの群れが確認された。報道によると新型コロナの影響で現地の観光業は大打撃を受け、観光客が減少していたそうだ。
新型コロナで人間活動が制限され、野生生物が生き生きとしている事例が世界中で記録されている。いつの日か、沖縄のジュゴンも工事の影響を受けずに、仲間とともにゆうゆうと泳げる日が来るだろうか。
本来あるべき生き物たちの姿を見た今、どのような行動を取るか――。それは、ポストコロナ時代に私たちに突きつけられた問いかもしれない。
<文/
幸田幸>
【参考文献】
池田和子『ジュゴン:海の暮らし、人とのかかわり』(平凡社)
ダイビングチームすなっくすなふきん編『大浦湾の生きものたち―琉球弧・生物多様性の重要地点、沖縄島大浦湾―』(南方新社)