新型コロナパンデミックによる「新たな貧困」の増加を懸念
イギリスでは今回のコロナ禍により、大量の人が失業して低所得者向け給付の申請数が急増した。
4月だけでも85万人が給付を申請し、1996年以降初めて受給者が200万人を超えるという深刻な事態になっている。
イギリス中央銀行は2020年のGDP成長率をマイナス14%と予測していて、これは「過去3世紀の中でも最大級の不況」だとしている。この大不況の中でNGOが懸念しているのは、もともと問題を抱えていた子どもたちのさらなる状況の悪化と、新たな問題を抱える家族と子どもの増加だ。
「ロックダウン前から、すでにイギリス社会はかなり不平等な社会だった。コロナパンデミックでさらに多くの人が職を失い、貧困に陥っている。コロナで不平等が進行するだろう。そして、ロックダウンの状況は親たちにとって非常にストレスフル。お金がなくてどこにもいけない場合は特にそうだ。貧しい子どもたちは、家庭でのリソースが足りない中で幼稚園にも学校にも行けず、教育のインプットを得ることができない」(W氏)
W氏のNGOでは4月末から、コロナの影響下で困難な状況に陥っている家庭を対象に、本やおもちゃ等の早期教育キット、スーパーマーケットのバウチャー、そして家庭学習を助けるための机・椅子などを含む「緊急救援パッケージ」を配っている。
また貧困や教育の問題以外にも、新型コロナはさまざまな悪影響をもたらすとの指摘もある。
イギリス(正確にはイングランドとウェールズ)では、2019年3月時点で5万4380人もの子どもたちが、虐待やネグレクトのリスクが高いとして、当局の注意対象になっている。ロックダウンにより、
従来子どもたちを守る「砦」として機能していた「学校」が閉鎖したことで、虐待・ネグレクトのリスクが増大しているのだ。
もともとロックダウン中においても、
医療従事者や学校関係者等の子どもたちと、ソーシャルワーカーがついているような虐待などのリスクの高い子どもたちは、例外的に学校に行けることになっていた。しかし、
これら高リスクの子どもたちは5%しか学校に行っていないとの報告もあり、目に見えないところでさまざまな問題が起きている可能性が指摘されている。
NGOはキャパシティ不足。3か月で43億ポンド(約6000億円)の収入減
駅構内に置いてある無料紙でも、大手子どもNGOが緊急支援の寄付を募る広告を掲載している
サポートが必要な子どもたちが増加する一方で、NGO側のキャパシティは大幅に減少している。コロナパンデミックによる寄付集めイベントの中止、古着などを売るチャリティショップの閉店、その他さまざまな寄付も激減した。
NGOセクター全体では、3か月で43億ポンド(約6000億円)もの収入減になるとの推計も出されている。
ロンドンの子ども若者支援NGOは18万人あまりをサポートしているとされているが、
40%のNGOが今後6か月以内に廃業する可能性があるという。
イギリスの福祉政策においてNGOセクターは不可欠のため、
政府はイギリスのNGOセクターに対し7.5億ポンド(約1000億円)の支援策を発表した。しかしこれではとうてい足りるものではなく、多くのNGOが苦境に陥っている。
前出のW氏は、「多くのNGOの経営が困難になっている中で、かなりの数の子どもたちが支援から取り残されることは大問題だ。そして子どもたちのサポートへの需要は今後ますます増えていくだろう。需供ギャップを埋めなくてはならない」と話す。
資金面だけではなく、子どもたちへの対面サポートができないことも問題だ。NGOの活動には子どもたちが集まって遊ぶような居場所支援も数多く含まれていたが、ロックダウンの状況下ではそうした活動はまったくできない。
またメンタルサポートなどのため、電話やスマホアプリで子どもたちや家庭に連絡がとれたとしても、子どもたちをめぐる状況がすべて見えてくるわけではない。家庭のWi-Fi環境が整っていないことも多い。
直接的に子どもに関わることに加え、NGOの重要な仕事の1つは人々の苦しんでいる状況を政府や広く世論に訴えて、さまざまな施策を変えるべく影響を与えるアドボカシー活動だ。
W氏は「通常は、子どもや両親に実際会って話を聞いたことをもとに、政府に訴えかけるなどの活動を行います。アドボカシーやキャンペーン活動に充てる資金が減少する中で、そもそもロックダウンで人々に会って話をすることもできない」とアドボカシー活動にも大きな影響があると話す。