都合の悪い質問を狡猾にかわす、小池百合子都知事の「時そばスルー」答弁

話題を読んでいる『女帝 小池百合子』(文藝春秋)

話題を呼んでいる『女帝 小池百合子』(文藝春秋)

 東京都知事選が始まった(6月18日告示 7月5日投開票)。現職で再選をねらう小池百合子都知事をめぐっては、石井妙子氏による『女帝 小池百合子』(文藝春秋)が5月に発売され、学歴詐称疑惑が再燃するなど、話題になっている。  筆者がこの本を読んで特に気になったのは、小池氏が平然と嘘をつくという点だ。前回の2016年の都知事選の際に、小池候補は有力候補であった鳥越俊太郎氏のことを街頭演説で「病み上がりの人」と言及したが、その後、テレビ番組の討論会で顔を合わせた鳥越候補が小池候補に「私のことを『病み上がりの人』と言いましたねっ」と激しく食ってかかったところ、小池候補はおもむろに口を開き、「いいえ、言ってませんねえ」と答えたという(同書p.11-12)。同書には他にも多数、小池氏の嘘に翻弄される人々の様子が描かれている。  新型コロナウイルスの終息がまだ見通せない中での都知事選だ。不都合な事実を隠し、嘘をついて言い逃れをするような人が都知事であるなら、私たちの命が脅かされる。選挙期間中の今こそ、小池都知事が今後も知事にふさわしい人物であるか、検証が必要だ。

6月17日の日本記者クラブでのやりとり

 検証の素材として、告示前日の6月17日に日本記者クラブが開催した立候補予定者の共同記者会見が役に立つ。その様子がYouTubeに公開されているので、ご覧になっていない方はぜひ見ていただきたい。参加したのは、宇都宮健児氏、小野泰輔氏、小池百合子氏、立花孝志氏、山本太郎氏の5名だ(五十音順)。  筆者はリアルタイムで中継を見ていたが*、その中で小池氏の2つのごまかしに気づいた。今回はそのうちの1つを紹介したい。宇都宮健児候補が小池氏に3つの質問をおこなったのに対し、小池氏が巧妙な方法で2つ目の質問をスルー(無視)した場面だ。実際のやりとりを見ていただきたい。 〈*日本記者クラブによる映像の公開は事後に行われた。リアルタイムでは朝日新聞社がネット公開しており筆者はそれを視聴したが、記者会見の進め方の説明や各候補の3分ずつの意見表明の場面は公開されず、開始20分ほど経過したあとの候補者相互の質問の場面からのみが公開された。手違いによるものであるのか否か、理由はわからない。この朝日新聞社の映像をもとに、峰里えり氏が記者会見の文字起こしをnoteに公開されている。今回の記事で文字起こしをするにあたり、参考にさせていただいた。感謝申し上げたい〉

宇都宮氏から小池氏への3つの質問

 共同記者会見の29分31秒から30分48秒にかけて、宇都宮健児氏は小池百合子氏に対し、次のように3つの質問をおこなった。 ****** ●宇都宮健児  現職の小池さんのほうにお伺いしたいと思います。  コロナ対策ですけど、3月24日に五輪延期決定がなされているわけですけど、その翌日、小池さんは、「感染爆発、重大局面」ということを強調されて、対策を強化される方向を打ち出すんですけど、もうそれ以前からコロナの感染の危機は広がっていたと思われますけど、初動の遅れがあったんではないかと思います。その点どうでしょうか。  それから東京アラートの解除の基準も極めて曖昧で、アラート解除の後に感染者数が逆に増えています。この辺の解除っていうのはかなり曖昧だったんじゃないか。それについて、いかがお考えなのか。  それから、カジノの誘致計画はきっぱりと中止すべきではないかと思いますけど、その点どのようにお考えでしょうか。カジノは博打なんで、負けた人の犠牲の上に成り立つ商売なんですね。人の不幸の上に成り立つようなカジノ誘致はきっぱり中止すべきだと思いますけど、いかがでしょうか。 ******  質問は3つあった。しかし小池氏は2つの質問にしか答えなかった。にもかかわらず、すべての質問に答えたかのようによそおった。どのようにそれが可能であったか。注意深く見ていただきたい。映像の30分55秒から32分28秒にかけてだ。 ****** ●小池百合子  はい。えー、最初のご質問、たくさんいただきましたのでね、えーっと、カジノからまいりましょうか。  カジノについては、後の質問から恐縮です、今、お話もありましたように、勝つ人っていうか、負ける人のことをベースに成り立っている、というようなご質問だったかと思います。一方で観光という点では、誘客についてはこのメリットもある。これらメリット・デメリット含めまして、これを研究をしているということで、総合的な検討が必要だという姿勢でございます。  それから東京オリンピック・パラリンピックの開催にこだわったがゆえにですね、コロナ対策が遅れたのではないか、というご質問ですが、その指摘には当たりません。今日はですね、ちょうどそのままでいきますと、雫石、岩手県の雫石を聖火リレー、回っている頃なんですね。で、その中でですね、各、それぞれの関係者との連携などを取る、それらのこともすすめてまいりました。しかし、これについては、コロナ対策とは別件でございまして、コロナに対しては、すでにその前からしっかりと東京都として対策をすすめていた次第であります。  最初のご質問、なんでしたかしら。 ●小栗泉(進行役 日本記者クラブ企画委員(日本テレビ))  初動対応という・・・・・・ ●小池百合子  あ、それ、じゃあ今、お答えしましたね。はい、ありがとうございました。 ******
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まるで落語の「時そば」⁉︎ 都合の悪い質問を無視する狡猾な手法
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