都合の悪い質問を狡猾にかわす、小池百合子都知事の「時そばスルー」答弁

「時そばスルー」答弁

   いかがだろうか。小池氏は回答の順番を変え、まず3番目の質問であるカジノ問題に答えている。その次に1番目の質問である初動の遅れの指摘に答えている。  巧妙なのはそのあとだ。「最初のご質問、なんでしたかしら」とにこやかに問うて、進行役の小栗企画委員に「初動対応という・・・・・・」と答えさせ、「あ、それ、じゃあ今、お答えしましたね。はい、ありがとうございました」と締めている。あたかもすべての質問に対して、回答したことを確認した上で話を締めくくっているかのようだが、よく見れば、宇都宮氏が2番目に問うた、東京アラートの解除の基準の曖昧さについては、何ら、答えていない。  宇都宮氏の2番目の質問を巧妙に回避したこのやりとりをツイッターで紹介したところ、「ハチドリ」さんから「まるで「時そば」だよ。」とのコメントがついた。  「時そば」とは古典落語の演目の1つだ。そば屋の代金十六文を支払うときに、男がそば屋に手を出させてそこに一文銭を数えながら渡していく。「一(ひい)、二(ふう)、三(みい)、四(よう)、五(いつ)、六(むう)、七(なな)、八(やあ)」。そこで「今、何時(なんどき)だ」と時刻を尋ね、そば屋が「九(ここの)です」と応じると、「十(とう)、十一、十二、十三、十四、十五、十六」と渡し終えて去っていく。一文を巧妙にごまかしたわけだ。  まさに「時そば」と同じだ。この「ハチドリ」さんの指摘を受け、「jibandouji」さんは小池氏の答弁が「時そばスルー」と名付けた(なお、ここで言及されている分数は、朝日新聞社の映像のもの)

小池氏の「時そばスルー」答弁は確信犯か

 さて、この小池氏の「時そばスルー」答弁は、確信犯だろうか。筆者はそうだろうと思う。そう考える根拠は3つある。  第1の根拠は、あえて質問の順番を変えたことだ。宇都宮氏の3つの質問は、それほど込み入った質問ではない。第1は初動の遅れ、第2は東京アラートの解除の基準の曖昧さ、第3はカジノ誘致を中止すべきという点だ。さっとメモをとれば、順番に答えることはできたはずだ。  にもかかわらず、小池氏は質問を「たくさんいただきましたので」として、3番目のカジノの問題から答え始めた。そして、コロナ対策の初動の遅れがあったのではないかとの1番目の質問に戻って、2番目の質問はスルーした。  第2の根拠は、初動の遅れの指摘に対する回答を不自然に引き延ばしたことだ。本来なら雫石を聖火リレーが回っている頃だ、といった話は、ここで話さなければいけない内容ではない。にもかかわらず聖火リレーに言及した。時間制限がある中で、あえて答弁の時間を長引かせ、都合の悪い質問への回答を回避するねらいがあったものと思われる。国会で安倍晋三首相がよくやる手法だ。  この共同記者会見では、質疑応答はそれぞれ1回1分とあらかじめ決められていた。冒頭にその旨の説明がある。  宇都宮氏の質問は1分17秒ほどで、それほど時間をはみ出していない。それに対し、小池氏の答弁は、「最初のご質問、なんでしたかしら」と問うまでで既に1分24秒ほどが経過している。2番目の質問に答える前に既に時間オーバーだ。進行役の小栗氏とのやり取りをはさんで話を終えるまでだと1分33秒ほどだ。  32分14秒ごろに、小池氏にメモを差し入れる人物の影が見える。時間の超過を伝えるメモだろうか。そのメモが差し入れられたあとで、小池氏は「最初のご質問、なんでしたかしら」と進行役の小栗氏に問い、「あ、それ、じゃあ今、お答えしましたね。はい、ありがとうございました」とにこやかに答弁を終えているのだ。  司会進行役の小栗氏は2つ目の質問に答えられていないことに気づいていたかどうかわからないが、そのまま次の質問者に話を振ってしまった。リモート中継であったため、質問した宇都宮氏の表情は見えない。宇都宮氏が異議をとなえることも難しかっただろう。  第3の根拠は、質問が振られたあと、答え始める段階での小池氏の様子だ。これは実際に映像を見ていただきたい。30分55秒頃からだ。最初、小池氏は右下の方を向いている。その手元に何かを手渡す人物の影が見える。
右下を見る小池都知事

右下を見る小池都知事。背景には人影が映っている(日本記者クラブYouTube動画より)

 そのあと小池氏は左下の方に視線を移し、「最初のご質問、たくさんいただきましたのでね、えーっと、カジノからまいりましょうか」と答え始め、そのあとはカメラから視線をはずさずに答えていった。  小池氏の答弁の開始時に渡されたメモの内容はなんだろう。宇都宮氏の質問の内容をスタッフが箇条書きにしたメモならば、それを確認しながら3つの質問に対し、漏らさず回答ができたはずだ。そうではなく、2つ目の質問には答えるな、というアドバイスだったのだろうか。
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「やりとり」に注目すれば見えてくるものがある
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