その一方で悪用される可能性も否定できない。これまでも
スマホは政府の監視の格好のターゲットになっている。政府に批判的な団体や人々、あるいは人権擁護団体などのスマホに監視のためのスパイウェアを仕込んでいる。事例には事欠かないが本題ではないので、その代表例として世界45カ国で利用されている
イスラエルNSOグループ製のスパイウェアPegasus*を挙げておく。45カ国という数からわかるように
政府が監視のためにスマホにスパイウェアを仕込むのは珍しいことではないのだ。
〈*
HIDE AND SEEK Tracking NSO Group’s Pegasus Spyware to Operations in 45 Countries(CITIZEN LAB)〉
これまでスマホに仕込んだスパイウェアが監視できるのはあくまでそのスマホだけだった。しかし、今回の接触確認アプリの機能があれば、過去に接触した相手を一網打尽にすることができる可能性がある。
政府に批判的な市民活動家や人権擁護団体、その支援者たちを網羅的に監視下における。もちろん
アップルやグーグルなどのシステムをハッキングし、さらに匿名化されたIDから持ち主を特定するなどハードルは高いが、どのようなシステムでも破られるのは過去の歴史が証明している。こう考えると、接触確認アプリの機能によって、これまでのスマホ監視で欠けていた、
物理的に接触した相手を一網打尽にするという機能が補完されることになる。
接触確認アプリは一定の条件を満たせば感染抑止に効果があるかもしれないが、同時に
監視強化といった悪用の可能性も広げるのである。
これまで書いたことをまとめると下記のようになる。
・対策の決め手にならないことはシンガポールの例からも明らかである。
・効果を充分に発揮するための条件が全人口のおよそ60%以上の利用であり、強制力のある導入を行わなければ難しい。
・前提となる迅速かつ正確な検査、隔離体制に懸念がある。
・人手を介さない場合、混乱を招く危険がある。
・この機能が悪用される可能性がある。
さまざまな手段を講じて感染を抑止するのは重要である。ただし、その前に優先度を考え、過去の事例からの知見を生かさなければならない。今回の接触確認アプリ導入では、それが欠けているように思える。
日本政府による「接触確認アプリ」のリリースはもうすぐである。はたしてどれだけの日本国民が利用し、どこまで効果があるか不安を禁じ得ない。
<文/一田和樹>