3:『リトル・モンスターズ』(2019) 幼稚園の先生は命がけで子どもたちを守っている!
幼稚園の遠足中にゾンビに出会ってしまった……!というとんでもないシチュエーションで展開する、コメディ色の強い作品だ。子どもたちが活躍するとは言え、内容は随所に下ネタが盛り込まれ、残酷描写もアリアリと完全にオトナ向け。日本ではごく限定的にしか劇場公開されなかったが、米批評サイト「Rotten Tomatoes」で80%など高評価を得た隠れた快作である。
この映画で改めて認識できるのは、幼稚園の先生は命がけで子どもを守っているという真実だ。そもそも子どもは気まぐれかつ自分勝手で、園内で過ごしている時はもちろん、遠足などの外出の行事の時にはより命の危険にさらされているというのは言うまでもない。
現実でもそうであるのに、そこにゾンビが現れたとしたら?幼稚園の先生は歌などで子どもたちを楽しませつつ、ゾンビと戦うというハードすぎる引率の仕事をやり遂げようと奮闘するのだ。もちろんこんなことは現実ではあり得ないし、その様子はコメディ調に描かれてはいるのだが、「現実の幼稚園の先生もこれくらい大変かもしれない!」「先生も感染の危険がある今ではもっとだ!」などと襟を正すこともできるのである。
加えて、さえないミュージシャンの男がもう1人の主人公として成長していくのも重要だ。彼は姉の家に転がり込んだあげくに恋人に浮気されるという散々な目にあっていて、遠足に参加したのも先生と良い感じになりたいという不純な動機だったのだが、彼なりに甥っ子や子どもたちを守るという使命を持ち行動するのである。その姿を見れば、「幼稚園の先生ばかりに責任を押し付けず、自分も子どもたちに何かができるかもしれない」などと、子どもの親御さんや親戚こそ気づきを得られるだろう。
ネタバレになるので具体的には書かないでおくが、ラストシーンも実に素晴らしい。これは現実の新型コロナウイルスが蔓延した今に観てこそ、感動が倍増するオチでもあったのだ。『それでも夜は明ける』(2013)のルピタ・ニョンゴ、『美女と野獣』(2017)のジョシュ・ギャッドなど出演者も豪華なので、それ目的で観てみるのも良いだろう。
今の現実に通ずる近年のゾンビ映画には、ダメ人間の成長物語としても秀逸な日本映画『アイアムアヒーロー』(2015)、48時間でゾンビになってしまう父親が赤ん坊を守ろうとするNetflixオリジナル映画『Cargo カーゴ』(2018)、閉鎖的な街で塞ぎ込む若者たちの青春をミュージカルを交えて描いた『アナと世界の終わり』(2019)、ゾンビが治療された後の世界を描く
『CURED キュアード』(2017)などもある。
ゾンビは現実には存在しないが、ゾンビ映画はウイルスのパンデミックを揶揄するのはもちろん、社会状況のメタファーを提示したり、人間の“業”のようなものを暴き出すことも多く、現実で生きるヒントも得られることもある。単純にエンターテインメントとして楽しむのももちろん良いが、今はそうした知見がよりリアルなものとして感じられるはず。これらのゾンビ映画を、絵空事だと侮ることなく観てほしい。
<文/ヒナタカ>