【一般的なガーゼの構造】
規則的な構造を持つ織物でありもの細かさも100μmから数十μm程度で構造は、肉眼かルーペで目視できる(Wikipedia(EN)より)
まず布の構造ですが、一般的なガーゼは、
数百ミクロンから数十ミクロンの規則的構造を持ちます。一方で不織布は、
数十ミクロンからサブミクロンの不規則な構造が何層にも重なった構造をしています。
これは、製法の違いから来るものです。ガーゼは繊維を機械的に織っているために規則的構造となります。一方で不織布は、その名の通り織らない布で、繊維の原料を吹き付けるなどして直接、布とするためにたいへんに複雑な構造となります。この構造の複雑さが薄くても丈夫であり、フィルターとしても極めて優れた性能のもととなりますが、一般に不織布は
液浸(えきしん)に極めて脆弱です。
不織布を水、アルコール、油などで濡らしてしまうと乾かしても繊維構造が元に戻らず性能が大きく落ちる場合が多いです。不織布マスクは洗えないとされてきた理由の根本がここに在ります。
不織布そのものはその製法からたいへんに安価にできますので、医療・衛生用不織布製品は、基本的に使い捨てですから液浸への脆弱性は問題となりませんでした。
医療・衛生用不織布製品を液体で洗った場合、仮に目視で状態が変わらなくても繊維構造は、甚大な打撃を受けていますので性能は著しく低下しています。仮に家庭衛生用であっても
絶対に液体で洗ってはいけません。液浸した不織布マスクはゴミです。とくに液浸したN95マスクは、見てくれは正常でも飛沫まで通しかねない殺人マスクとなり得ます*。医療・衛生用不織布製品の例外的再処理は、あくまで乾式工程のみとなります。
〈*
西村 秀一、阪田総一郎. N95マスクのアルコールによる消毒は禁忌 日経メディカル(会員専用)〉
マスクが阻止する事が想定される粒子は、
唾や涎、花粉、飛沫、PM2.5、エアロゾルです。また、
細菌(バクテリア)や、体組織が考えられます。ここでは全国マスク工業会とフィッテスト研究会の資料から図を引用します。
日本人は体験的によく知っていますが、
一般的な布マスクは全く花粉症対策になりません。筆者は、高級・高性能布マスクについては全く知りませんが、一般的な布マスクでは、花粉も飛沫も止められません。WHOがマスク着用は意味がないというのは、このことを指します。但し、
大きな感染ルートである「手で口や鼻を触る」を阻止するには「こうかはばつぐん」です。また、
感染者が着用することによって、飛沫は無理としても唾や涎を飛ばすことは減ると思われます。
高性能不織布マスクの場合、近年多く流通しているPM2.5対策マスクならば、
細菌ろ過効率(BFE:Bacterial Filtration Efficiency)*≧98%と
微粒子ろ過効率 (PFE:Particle Filtration Efficiency)**≧98%を満たしていることを表示している場合があります。この場合は、サブミクロン級(1µm未満、だいたい100nmから1µm未満を示す)の飛沫を阻止できることを意味します。コンビニや薬局でこの2つの表示があるマスクを見つけたら、それは大当たりです。大切に使ってください。
〈*細菌ろ過効率(BFE:Bacterial Filtration Efficiency):マスクによって細菌を含む4〜5μm の粒子が除去された割合をパーセントで表し、着用者の咳やくしゃみの飛沫遮断性を示す〉
〈**微粒子ろ過効率 (PFE:Particle Filtration Efficiency)>98%:0.1μmのポリスチレン製ラテックス微粒子をマ スクに負荷し捕集された程度を測定し、マスクが 直径μm未満の粒子をろ過できる性能を表す〉
この
PFEとBFEはたいへんに大切な性能表示ですので、高性能不織布マスクを購入する際には、
この二つの指標が98%以上であることを確認してください。ほかに液体防護性(ASTM F1862)という指標がありますが、家庭利用では関係ありません。
PFEとBFEが98%以上であるならば、
花粉、体組織、飛沫、PM2.5だけでなく、細菌とエアロゾルの大きなものを阻止できます。一方で、
煙草の煙やウィルス単体は100nm未満ですので、高性能不織布マスクでは止められません。一方でN95マスクは、公称300m以上の濾過能力保証ですが、実際には100nm程度までは濾過能力があると経験的に知られていますのでウィルスにもある程度有効である可能性があります。このため医療現場や介護・福祉現場といったウィルス感染症のリスクがたいへんに高い場所で働く労働者には、N95マスクが重点的にあてがわれるべきなのです*。
〈*
安全器材と個人用防護具(一般社団法人 職業感染制御研究会)〉
医療、介護・福祉の現場にN95マスクを集中投入せねばならないことは当然として、それでは高性能不織布マスクでは感染症防護はできないのでしょうか? 答えは
否です。
ウィルスが空気中を伝搬する場合、
ウィルスは飛沫やエアロゾルに付着することで移動しますし、感染能力を維持します。感染者、患者と極めて濃厚に接触することが想定されない一般市民の場合、
飛沫とエアロゾルを阻止できるだけでも感染可能性を大きく下げられる可能性があります。これは、少しでも考えれば当然のことです。
マスク無用ドグマ(教義)が現れたときの筆者の持った強烈な違和感はこれでした。そしてこれは
福島核災害当時の「プルトニウムは重いから飛びません」デマゴギーと全く同種のものです*。
〈*筆者は、福島核災害においてプルトニウムが環境中に大量拡散したという主張には同意しない。しかし、「プロトニウムは重いから飛びません」は、科学的には完全に嘘である〉
本邦は、面白いもので
何か国を揺るがすほどの大災害が生じるとこの手の変なデマゴギーが現れ、自称科学者や自称医者、自称落ち着いたものをよく知る人たちによってばら撒かれます。しかしこれらは非常に
陳腐で粗末な嘘であるため、少しでもものを調べ、論理的に考えれば簡単に看破できます。だいたい
高校卒業程度の知識と理解力で十分であり、中等教育(中学、高校)はよく作られていると感心します。