政府の対策がプランAだとすれば、野党の対策がプランBとなります。議会制民主主義の特徴は、常にプランBが用意されることです。プランBがより良ければ、政権交代せずとも、
与野党の協議によってプランAを改善できるのです。
与野党は、新型コロナウイルス対策政府・与野党連絡協議会を設け、
政府の対策に野党案の反映を検討しています。これは、政府から内閣官房副長官、与党からコロナウイルス対策責任者、野党から政策責任者が出席している協議会です。
野党の政府に対する提案(プランB)のうち、フリーランス関係の事項は、次のとおりです。
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すべての国民に対して一人当たり10万円以上、総額十数兆円規模を現金で給付。給付金は課税対象とすることなどにより、実質的に高額所得者への給付金の減額を行う。
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補填(ほてん)なくして要請なし。経済的減収に対する補填がなければ、自粛要請は実効性のあるものとならない。「補填なくして要請なし」の原則に基づいて対応を行うべき。
▼ 政府の自粛要請に伴うイベント等の中止、学校の一斉休校、入国制限等により、
直接・間接を問わず影響を被った事業者、個人(パート、フリーランスを含む)に対する経済的損失の一定割合や、前年同月比での収益・所得の減少幅の一定割合を補填するなど、事業継続、生活水準確保のための措置を実施すること。
▼ 可能な限り、税、社会保険料、公共料金等の負担軽減措置を講ずること。希望者に対し、地方税や消費税の予定納税を含め一年間の納税猶予を確実に実施するとともに、次年度の所得の状況に応じた減免を可能とすること。
▼ 事業者の資金繰り対策のため、政府系金融機関による無利子貸付や無担保枠及び融資上限額の拡大、据え置き期間や返済期限の延長など更なる負担軽減措置、償還免除等の大胆な措置を実施すること。
このように、
政府与党(プランA)と野党(プランB)の最大の対立点は、事業への補償と個人への給付にあります。
厳しい条件を付けたい政府与党と、無条件で実施したい野党という構図です。
興味深いのは、
野党の提案に「給付金は課税対象」とあることです。これによって、実質的に必要な人にのみ、給付されることになります。
いったん給付しても、必要としない人(高額所得者)は、税として給付金を返すことになるからです。
フリーランスにも同様の措置を取れば、広く補償をしつつ、結果として不要だったフリーランスから税として回収できます。そうすれば、個人も事業者も、不公平とはなりません。つまり、
不公平を避けつつ、必要なフリーランスに補償することは可能なのです。
政府はケチっているのでなく、通常の景気対策と見誤っている
政府の対策は、社会活動の低下に伴う補償というよりも、景気対策としての面が色濃く出ています。上記の経済産業省の中小事業者向けパンフレットは「資金繰り」「設備投資・販路開拓」「経営環境の整備」の3本柱で、
実質的な対策は「資金繰り」のみです。
これは、
実効性を補償によって担保する特措法の趣旨から見て、十分でありません。補償が不十分なため、背に腹は代えられぬとして、多くの中小事業者・フリーランスが仕事に出かけてしまう恐れがあります。
また、
生活保障という点から見ても、対策は十分でありません。社会活動の抑制によって、様々な負荷が人々に課されていますが、それを緩和し、生活を安定させるための対策をより充実させる必要があります。そうでなければ、
経済を含む社会活動を抑制できず、感染も抑制できません。
他方、
野党の提案は、事業補償と生活保障に力点を置いています。これは、特措法の趣旨に合致し、人権に配慮した中での最大限のウイルス対策になります。
要するに、
政府はウイルス対策として人為的な不況を起こしておきながら、通常の景気対策の思考で対処しているのです。感染防止のため、あえて社会活動を抑制しているのですから、それに合わせた対策が必要であるにもかかわらず、そうした発想が不十分なのです。
これは、
新型コロナウイルス対策の全般について、経済産業省が主導していることの弊害と考えられます。経産省がこうした危機対応に不慣れなことは、福島原発事故でも明らかです。
前回の原稿で指摘したように、本来であれば、
官房長官と内閣危機管理監、厚生労働省の医務技監が対策を主導すべきなのです。
緊急経済対策の補正予算の審議は、これから国会で始まります。対策の実施は、補正予算が成立してからです。補正予算の審議中に、国会での審議を受けて、様々な制度の詳細が決まります。
事業補償や生活保障を実現するには、一人でも多くの方が自らの意見を政府・国会に届けることが重要になります。SNSでの発信に加え、政府へ意見を届けること(参照:
首相官邸の意見募集フォーム)も積極的に行うといいでしょう。
<文/田中信一郎>