ロボットにアイドルの名前を付ける男たち。「キモい」の歴史的形成過程を追う<史的ルッキズム研究1>

#KuToo・石川優実さんを罵る男たちはいかに「罵倒」されるか

工場 女性労働者に対するパンプス着用強制を問題化した、「#KuToo」の石川さんが、男性たちの攻撃にさらされています。主にツイッターを舞台にして、石川さんへの罵倒がある。  石川さんが浴びせられる罵倒語のなかで、代表的なものは、「ブス」です。反石川の男性たちはこの言葉をしつこく繰り返しています。    しかし、この男性たちも無傷ですむわけではありません。彼らは別の罵倒語にさらされていて、その代表的なものは「キモい」です。気持ち悪いやつ、という意味です。    「ブス」と「キモい」、どちらがより意味深く拡がりをもつ表現かというと、「キモい」だとおもいます。これは、パンチがある。そして、深い。史的ルッキズム研究第一回は、「キモい」という表現を考えることから始めます。

工場のロボットを「百恵ちゃん」と呼んでいた

 1970年代、石油ショックとドルショックという二つの大事件によって、日本は長い経済不況に陥ります。60年代の高度成長から一転して、産業界・労働界は大きな壁にぶつかります。このとき産業界が目指したのは、省エネ化、省力化、さらにコンピューターを導入した生産工程の自動化です。マイクロコンピューターの飛躍的な発展によって、オフィスオートメーションやファクトリーオートメーションが急速に進められていきます。工場では産業用ロボットが開発・導入され、人員を削減していきます。多くの労働者に頼ってきた「労働集約型」の産業が、ロボットによる無人化を目指し、熟練の労働者が解雇されていきます。そんな時期の、あるエピソード。  ある工場に試験的に導入された2台の産業用ロボット。人間とロボットが入り混じり作業をしています。この工場ではロボットに愛称をつけて呼んでいます。1号機・2号機と呼ぶのではなく、「百恵ちゃん」「宏美ちゃん」と名付けました。これは当時人気のあった女性歌手、山口百恵と岩崎宏美からとった愛称です。職場へのロボット導入に多くの労働者が戸惑っていたころ、この工場ではロボットに女性の名前を付けることで「親しみやすいものにしたのだ」、と。現代風に言えば「擬人化」ですね。経営者も現場の工員も、「これは良いアイデアだった」と言うのです。
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「キモい男たち」が生まれたのは70年代?
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