新型コロナで中止になった1万人規模のイベント「技術書典8」、オンライン開催への挑戦

実際経験してみたサークル参加者の体験

 まず、今回のオンライン開催イベントが、特殊な状況だということを書いておく。販売された本の数にしても「同情票」「応援票」といった意味合いがかなり強いだろうと感じている。普通にオンライン開催イベントをおこなっても、「同じ数は出ない」ということが容易に想像が付く。おそらく半分以下、それも1~2割になるだろうという実感だ。  その前置きを前提に、出た本の数を、これまでの技術書典と比較する。イベントで出る本のイメージは、1日の流通量11万7千冊を、642サークルで割った値、182冊ぐらいを想像するとよいだろう。実際の私のサークルの数字とは違うのだが、イメージとしてはちょうどよい。  1ヶ月にわたっておこなわれる「技術書典 応援祭」の販売数は、1日のリアルイベントで頒布される数の、だいたい3~4割といったところだ。  こうした販売の経験がない人には、少ないように感じるかもしれない。しかしこの数字は、私の過去の経験から言うと非常に大きい。  私が切り盛りしている零細サークルは、特定の先進技術の本を出しているわけではない。どちらかというと、技術を使った一発ネタのような本が多い。たとえば、実行時エラーばかりを100以上集める本とか、落ち物パズルゲームのコードを1冊に収めて解説する本とか、そういった類のものだ。  なので、普段通販ではほとんど売れない。イベントで見て、面白がって買っていく需要がほとんどだ。いわば「夜店で売っている玩具」である。祭りの日以外に、わざわざ探して買い求める人は少ない。  そのため、イベント後に通販をおこなっても、イベント時の数パーセント程度しか売れないのが実情である。それが、3~4割売れているのである。これは、かなり大きな数字だ。私と違い、特定の先進技術について書いているサークルなら、もっと数字が出ているだろう。

予想以上に成功したが、「場」を作る難しさも

 しかし、売れ行きに関しては、ピークは最初の数日に限定された。販売数のうち、半数は最初の3日に販売されたものだ。1ヶ月の開催期間となっているが、スタートダッシュで売れて、あとはなだらかに減っていくというのが実情だ。オンラインイベントは、リアルイベントほどの「場」が作れていないのが実感できる。  コンテンツが売れるためには「場」が必要だ。生活必需品以外のものを売るには「文脈」が必要になる。  お祭りに行くと、ついついお金を使う。コンサートに行くと、グッズを買う。  そうした「場」や「文脈」は、リアルなイベントの方が作りやすい。オンラインイベントは、非日常を作るのに向いていない。人は雰囲気で物を買う。オンラインイベントは、その熱量を演出するのが難しい。  それでも「技術書典 応援祭」は、予想していたよりも遥かに成功している。想像以上の集客がおこなえている。販売イベントでは、数字でその成否が如実に見える。リアルなイベントの3~4割の数字というのは、非常に成功した部類と言えるだろう。まだ開催期間は残っているので、この数字はもう少しよくなるのではと期待している。
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遠隔イベントは、対人イベントの隙間を埋められるのか
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