「1~2月は来店客数が多かったのに、3月は減った。売上は伸び悩んでいます」
調査結果を踏まえ、筆者は不動産業者に現状を聞いてみた。都内で働く安達さん(仮名、賃貸仲介)は、「1~2月は来店客数が多かったのですが、3月は減りました。問い合わせの件数も同様に落ちており売上は伸び悩んでいます」と話す。
「連日のように新型コロナウイルスに関する報道がされていて、そうしたニュースを見ると不安になってしまいますよね。世の中にネガティブなムードが漂っていて、部屋を借りようとする気持ちが弱まっているように感じられます。
あとは春からの転勤に伴う需要も減っています。今年は企業様が転勤に慎重な姿勢を示されていて、状況を静観しているんです」
千葉県市川市で賃貸や売買などを扱う「縁合同会社」代表社員・安孫子友紀さんも「来店客数の減少や、住み替え需要の低下は起こってくる」と、先行きに不安を抱いている。
しかし部屋を借りたい、引っ越したいと思う人がゼロになっているとは考えにくい。
入居希望者にとってネックなのは、店舗に出向いたり、物件に行って内覧したりするなど外出しなければならないことだ。対面でのコミュニケーションを減らし、オンラインを活用したやりとりが増えれば、そうした層の需要を拾える。新型コロナウイルスをきっかけに、不動産業界は顧客対応の転換が迫られているのだ。
実際「非対面型」の契約を希望する声は根強い。AIを活用した不動産仲介支援サービスを提供する「イタンジ」が3月中旬に発表した調査結果では、調査対象となった一都三県在住の20歳~49歳の男女309名のうち70.6%が「スマホ上で物件探しから、内見予約、入居申し込みまで完結するサービスを『利用したい』」と答えている。
しかし実際に経験した部屋探しでは、「不動産店舗に行った、もしくは、不動産営業マンが同行した」の回答が約60~80%と最も多く、理想との間にギャップがある。入居希望者の要望に応じて、対面と非対面を組み合わせたやりとりが求められている。
前述の安孫子さんも「今後は、対面重視からネットを活用した物件探し、内見、申し込み手続きに変わっていくと思います。来店客を待つだけでなく、SNSを使った集客に強くなっていく必要があるのではないでしょうか」と、非対面でのやりとりに移行する必要性を述べた。
実は不動産業界ではIT化が進められてきた。賃貸や売買契約締結前に契約内容や重要だと思われる事項を消費者に説明することを「重要事項説明」(通称、重説)と呼ぶ。以前は、宅地建物取引士が消費者と対面で重説を行なっていたが、オンラインを使った重説が実施されているのだ。
消費者は業者とオンラインで繋がり、パソコンやスマートフォンの画面越しに不動産業者から重説を受ける。そのためわざわざ店舗に出向く必要がなく、遠方にいても対応できるメリットがある。
また「オンライン内見」を提供する不動産業者もいる。担当者が物件に出向き、内見希望者とビデオ通話をしながら室内や周辺環境を説明するものだ。進学や就職、転勤などで遠方の物件を借りる場合、移動の必要がなくなる。
不動産業界におけるIT化、非対面コミュニケーションの動きが活発になれば、外出が難しい状況でもオンラインを活用しながら部屋探しができる。対面・非対面双方のメリットをいいとこ取りしながら、うまく組み合わせていくのが好ましいのではないだろうか。
<取材・文/薗部雄一>
1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。