20日昼、大学も図書館も閉鎖されたので筆者は地元のカフェで作業をしていた。同じようにカフェで作業している人たちが多く、学校が休みなので子連れで街を歩く人も多く、閑静な住宅街の北ロンドンには平和な雰囲気が流れていた。
しかしそれも一変。その日の夜には全ての飲食店が閉鎖された。カフェやレストランはテイクアウトサービスのみで営業可能とのこと。全ての「社交場」を閉鎖してクラスター感染を抑え込もうとのことらしい。生活必需品の買い物、犬の散歩や軽いエクササイズ以外での外出は控えるようにとのことだった。
しかし、人は生活を制限されると、その抜け道を探そうとするものだ。
21日・22日の週末は公園に人が集まり、日本のように花見の文化など無いにも関わらず、公園で酒盛りをしている若者が多かった。筆者も散歩がてら近くの公園に行った。自粛モードにも関わらず、人が大勢公園に集まっているのを見て驚いた。
アレクサンドラ公園
北ロンドンに位置するアレクサンドラ公園では、散歩をしている人たちの姿がちらほら。ロンドン市内で一番の高台に位置し、市内を展望できるということで人気のスポットである。
ちなみにここ数日春の訪れか、常に天気の悪いロンドンでは珍しく天気が良い日が続き、皮肉にも散歩日和なのである。こういう時にロンドナーは本当に外に出たがる。犬の散歩をする人、ランニングをする人、友人と芝生の上に座り日光浴を楽しむ人。同伴した同居人と「公園で自然を愛でながら交流するって素敵だね」と話していた。別の友人からもテキストメッセージにて「近々一緒に公園で散歩しよう」との誘いもあり、筆者を含め誰もがこの状況を真剣に捉えてなかった。
3月22日の日曜日は英国では「母の日」ということで、ボリス・ジョンソン首相は毎日の会見の中で「間違えても遠くに住む母親に会いに行かないように。手紙やテキストメッセージでお祝いするように」と国民に注意した。西ロンドンに住む親しい友人に安否の確認の連絡をしたら「母親と市場を見に行ったよ」とのこと。まず市場がやっているのも驚きだし、60歳過ぎで持病持ちのお母様と散歩……。
英政府の言っている事と現実があまり噛み合わなかった。
3週間のロックダウン、「STAY HOME STAY SAFE」
とはいえ、3月23日時点でこの1週間で英国内の感染者数は6650人と1週間前の3倍に跳ね上がっていた。ちなみに執筆中の現在でも感染者はうなぎのぼりである(25日に8077人の感染が確認された。)
ついに23日に英国政府は最低でも3週間のロックダウンを宣言した。不要な外出を控えて家にいること。生活必需品の買い物もなるべく回数を減らすこと、一日一回のエクササイズでの外出は容認、2人以上で外を出歩かないこと。街には警察が待機し、違反者には切符が切られる、とのこと。
大学の実験室に勤務する友人は研究施設のメンテナンスの為に地下鉄で通勤しなければならない事を危惧していた。
「地下鉄の本数が減って、そのせいでラッシュアワー時は平常時と何も変わらないのよ。政府の政策は意味があるのかないのか・・・。」
彼女のように未だ平常時の生活ルーチンを強いられる人からは不満・不安の声が多い。英国では21歳の基本疾患のない若い女性の死が報道された。若者は新型コロナにかかっても重症化しない、という説が揺らぎ始めた。
兎にも角にも、この1週間という短い期間で生活が一変してしまった。
筆者の住む家の窓からは絶え間無く救急車のサイレン音が鳴り響いている。その反面、大通りからは人が消えない。無論、商業施設やビジネス街が集まるロンドン中心部はゴーストタウン化したと思われるが。閑静な住宅街の北ロンドンでは日常が少しずつ譲歩されながらも未だ繰り返されている。
テレビから流れてくるのは「STAY HOME STAY SAFE(自宅で安全に)」というスローガンばかりだ。筆者と同居人はここ数日間、ネットからの情報過多からのデトックスを目的に世界地図のジグソーパズルを始めた。二日で完成してしまったので、他の方法を考えなければいけないのだが……。
英政府は既に退職した医療関係者に声を掛け、東ロンドンに臨時病院を解説する事を発表。50万人以上の人がこの状況を乗り越えるためにボランティアとして名乗りを上げた。内容としては、食料品・生活必需品・薬等の配達、感染者の護送、隔離された人への安否確認などが含まれる。
国を超えて世界が一体になり、このパンデミックの状況を乗り越えることが大切だ。もちろん、生活が制限されることは大変なことだが、ここは一人一人ができる事をし、感染拡大、そして多くの望まれない死を防ぐしかない。
日本の友人たちから送られてきた物資
日本の友人からは、食料品・トイレットペーパー等が送られてきた。感謝しても仕切れない。
東京でもロックダウンが秒読みという噂を耳にした。
「明日は我が身」である。不要な外出は控え、何としても感染拡大を防いでほしい。一人一人の行動がこのパンデミックの行く先を左右するのではないだろうか。
<文/小高麻衣子>
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院人類学・社会学PhD在籍。ジェンダー・メディアという視点からポルノ・スタディーズを推進し、女性の性のあり方について考える若手研究者。