岩田健太郎氏の動画を「全部見てなかった」小泉進次郎環境相、投稿翌日にテレビ電話でヒアリングを行った野党議員

 後手後手で非科学的な安倍政権の新型コロナウイルス対応が続いている。「早期発見(検査)・早期治療・早期隔離が大原則」(国民民主党の原口一博国対委員長)なのに、未だに日本の検査数だけが他国に桁違いに少なく、数字に現れない形で感染が広がってオーバーシュート(爆発的患者急増)に至るリスクは日増しに高まっているのだ。 “国際標準”とは異なる日本特有の対応は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で感染拡大をした時から既に始まっていた。「14日間隔離なしでの下船者帰宅」などについて海外メディアから批判が噴出したのはこのためだが、そんな中で船内の動画を投稿(現在は削除済み)、驚くべき実態を告発したのが、神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授だ。  安倍政権の対応のどこが問題で、どう改善していければいいのかをハッキリさせるためには、現場経験豊富で感染症対策の“国際標準”を知り尽くしている専門家の話を聞くのが最も有効に違いない。そこで、岩田氏と野党議員の電話会議内容を3回に分けて紹介していく(第2回)。    

小泉進次郎環境大臣は岩田教授の動画について「コメントなし」

小泉進次郎環境大臣

閣議後の会見で「岩田教授の動画は全部見ていない」とコメントを避けた小泉進次郎環境大臣

 感染症の専門家の岩田健太郎・神戸大学教授が告発動画を配信した2月18日と翌19日、小泉進次郎環境大臣は新型コロナウイルス感染症対策本部を欠席して新年会に出席したことを追及されて、「問題だという声は真摯に受け止め、反省している」と非を認めた。  2日後の21日の大臣会見でも関連質問が相次ぎ、小泉氏は「反省をしている色が見えないことを改めて反省している」「反省の色が見えるように努力していきたい」と釈明に追われた。  汚名返上のため踏み込んだ発言が出るかも知れないと見た筆者は、岩田教授の動画をどう受け止めるのかと聞いてみたが、予測は見事に外れた。 「僕は岩田さんの動画は全部見ていないので、何ともまだ自分の中ではコメントするものではないなと思います」 「クルーズ船で新型の感染症が発生、これに対応するために前例にとらわれない措置を政府の対策本部が決定して、所管する厚生労働省が中心となって講じていることを環境省として全力でサポートしていくと。実際に環境省からも厚生労働省や内閣官房に職員を派遣していますので、環境省が持ち場としてやるべき対策に全力を尽くしつつ、人の面も含めて厚労省を全力でバックアップしたいというふうに考えています」  石炭火力問題では「閣内不一致」とも報じられた“爆弾発言”をしたが(「石炭火力プラント輸出に反対、原発についても踏み込んだ発言。小泉環境大臣の“変身ぶり”」記事参照)、新型肺炎問題では異論を唱える姿勢が影を潜めてしまったのだ。  しかも小泉氏は、米国民間シンクタンク「戦略国際問題研究所」の研究員だった経歴の持ち主であることから、岩田氏が疑問視した「14日間隔離なし下船問題」(参照:「ダイヤモンド・プリンセス」新型コロナ対応の時点から見えていた日本政府の”場当たり的対応”、”ダイヤモンド・プリンセス号船内に入った感染症の専門家の告発動画。現地記者からも裏付ける証言が”、”削除後も波紋を呼ぶ「岩田告発」。なんと現役厚生労働副大臣が船内ゾーニングの不備がよくわかる写真を投稿、後削除”|ともにHBOL)での日米の違いに注目しているに違いないと考え、筆者は「米国は基地内に隔離施設があって14日間滞在する対応だが、日本でなぜそういう対応が取れなかったのか」と見解を求めたが、小泉氏の政権追随志向に変わりはなかった。 「日米の対応の差という指摘もありましたが、今、前例にとらわれない対応が求められている中で努力をして、何が最善かということも考えてやっているのが厚労省です。環境大臣としてはサポートしていくことに尽きると思います」  次期総理大臣候補であり、米国通でもあるはずの小泉氏だが、ピンチをチャンスに変える気概も微塵も感じられなかった。対策会議欠席の失敗を取り戻すべく、岩田教授の告発内容に耳を傾けて新型肺炎対策向上につなげようとする気配がまったく見てとれなかったのだ。

クルーズ船外に本部を移動すべきだった

 対照的だったのは野党の国会議員だ。国民民主党の原口一博・国対委員長らは動画投稿の翌2月20日、テレビ電話会議で岩田氏からヒアリングをしていた。その質疑応答の中には、政府の感染症対策本部ですぐに議論をするべき内容(クルーズ船外への本部移動など)がいくつも含まれていた。
テレビ電話会議

テレビ電話会議で岩田健太郎教授からヒアリングをする原口一博・国対委員長ら野党国会議員(原口一博国対委員長のツイッターより)

原口氏:まず昨日(2月19日)、直接、ご覧になったところを教えていただけますか。 岩田教授:いちばん最初に入ったのはクルーズの5階ですかね、広間、その奥に本部ですね。この本部は、厚労省、DMAT(災害派遣医療チーム)、DPAT(災害派遣精神派遣チーム)のスタッフが入っています。そこに防護具を着る場所、また脱ぐ場所がありました。そこから階段を下りると、医務室があって、医務室の左右にクルーが通る廊下があり、医務室の前にスペースがあって、搬送される患者さんが集合していました。このへんが大体見たところです。 (船内にいた)自衛隊の皆様に限定して申し上げると、私は短い期間しかいなかったので確たることは言えませんが、多くの自衛隊の方は防護服を着ておられたので感染のリスクは小さいなと思いました。  検疫官やDMATの方、厚労省の方もそうなのですが、プロテクション(防護)が非常にアドホック(暫定的)でした。つまり、ちゃんとできているのかできていないのかが微妙になっていて、そこをもっともっと守るべきところにしてあげないと、彼らは気の毒だなと。  いちばん問題だと思ったのは、本部がクルーズ船の中にあることが、(安全な区域の)グリーンと(危険な区域の)レッドの区別を非常に難しくしていたことです。隣のターミナルのビルがありますので、そういった完全にウイルスがいないと確信することができる場所で、コマンド(指揮命令)を取ったり会議を開いたり、ご飯を食べたりスマホを触ったりするゾーンとして使えばよかった。しかしそのゾーンが微妙だったりすると、スマホにウイルスがついてもわからない。  とにかく、感染症は目に見えないものを相手にするわけです。目に見えないという前提で、ウイルスをイメージして、ウイルスがいる空間といない空間をいかにきちんと分けるかというのがいちばん最初にやる仕事なのです。  そのいちばん最初にやる仕事が、2月18日にもなって全然できていなかったところに私は戦慄を覚えました。自分自身が感染するリスクも強く感じましたし、また周りにいらっしゃるスタッフの皆様たちも、何と申し上げていいのでしょうか、ものすごく怖いなと思いました。
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DP号で見られた根性論だけの安全対策
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