感染を恐れていたDMAT(災害派遣医療チーム)らと自衛隊員の差
野党議員が参加した新型肺炎ヒアリング
阿部知子衆院議員(立憲民主党神奈川県連代表で小児科医):自衛官は教育も受けているし、対応もできているが、その他のいろいろな任務で中に入られた方は自分を守るためのさまざまな知識や備えが不十分だったと考えていいでしょうか。
岩田教授:これは意識というよりも、訓練だと思います。ルールはやっぱり感染対策のプロがきちんと決めるということで良かったわけです。私たちも例えば、エボラ対策でアフリカに行った時も、レッドゾーンで掃除をする方とか、トイレで汚物を処理する方とかの人の命をちゃんと守るために、全力を尽くしたわけです。
「すべての人が安全にすごせるように」というのが、いちばん最初にやることです。DMAT(災害派遣医療チーム)の方の話を聞いていると、「何か俺たち、感染してもおかしくないよね」と。覚悟を持つのはいいのですが、本当は覚悟ではなくて、きちんとした安全の前提をきちんと確保してから入るのが大事です。博打と言いますか、そういう
「やってやるぜ」的な根性論みたいなもので安全対策をするというのは極めて不適切です。
科学は大事で、情念とか根性の問題ではなくて、感情論で安全を台なしにしてはいけないの。こういう時こそ冷静に理論的に科学的に対策を取らないといけない。それができるのは専門家だけなのです。官僚にはできない。
阿部氏:感染症の専門家が入る時期が遅かったのでしょうか。
岩田教授:本来的には、「CDC(米国疾病対策センター)」という感染症と対峙する専門機関が中国にもある。韓国にもある。アメリカにもあるわけですが、それがずっと日本にはなかった。研究者とか官僚とか学会とかがアドホック(臨時的)に入って来ましたが、そうではなくて、いつでもすぐに対応できるようにしておかないといけなかった。普段から準備ができていないから、いざという時に対応できないということなのだと思います。
阿部氏:他に「これ」ということがありましたら、教えてください。
岩田教授:アフリカでエボラ対策をしていた時に、私が心から尊敬をするドクターがいて、シエラレオネ(共和国)にやってきたのです。我々がテントを張ったり、患者を診たり、薬を出したりということであくせくしている時に、彼が現場を見て何を言ったのかと言うと、「ここには学校が必要だ」と言ったのです。
「医学部を作って、看護学校を作って、医療スタッフを育てないといけない。またこういう感染症が起きる」と。我々がすごい狭い視野で「明日は、一週間後は、どうしようか」とあくせくしている時に、やっぱり偉い人はもっともっと大きなビジョンで先を見ているのですね。
今回の最大の問題は、クライシス(危機)が起きた時にプロフェッショナルな対応ができない、準備ができていないということだと思っています。どうしてもやっつけ仕事になってしまう。新型インフルエンザの時にも「日本版CDCを作るべきだ」というふうに申し上げていたけれども、なし崩し的に「みんな頑張ったから」と言って問題を先送りしてきました。
今こそ、ドクターが言ったように「日本の根本的な感染対策のストラクチャー(組織)を国際基準にあわせるべきだ」と思います。今までみたいにやっつけ仕事で国際社会が許してくれる時代は終わりました。すべての感染症がグローバル化して、日本の問題は世界の問題となり、もう少ししたらもしかしたら日本人は海外に行くのを禁止されてしまうかもしれない。それを避けるためにも、長期的視野と大きなビジョンというものを政治家の先生方にぜひ申し上げたいと思います。
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日本版CDC創設は、今回ヒアリングをした野党議員だけでなく、与党議員も共有すべき緊急課題ではないか。日本の遅れた感染症対策を“国際標準”に引き上げることができるのか否かが注目される(第3回に続く)。
<文/横田一>