起業の道は考えないのだろうか? かつてパティシエを目指していた公務員のユ・ソンテクさん(仮名・34歳)はこのように話す。
「例えば個人事業主として商品がある程度話題になると、大企業に買収という名目で吸収されるか、パクられるのが韓国のパターン。相手は大企業なので、よほどのオリジナリティを発揮できなければ泣き寝入り。だから、中途半端な力量なら独立しないほうがマシだと思って気が引けてしまうのです」
未来を担う若者が夢を描けないようでは、国の前途は多難だ。
「大卒でも貧しさのあまり売春をするコも……」と前出のミンさんは語った。悲しいかな貧困若年層の受け皿になっている韓国風俗業界だが、ユニークな点がひとつある。韓国人の風俗事情通によると、日本との違いは指名の多い女のコが独り勝ちするのではなく、指名のないコとの格差が広がらないよう配慮されている点だ。
例えば、クラブ式按摩の場合、テーブルで一緒に飲んだ中から気に入ったコを選び、別室などで本番に及ぶ。本番は60分あたり約1万2000円。最長勤務時間が12時間で、人気嬢の場合はその間10人ほど相手をする。選ばれなかったコは、再び次の客のテーブルに着き、一度も本番に入れなくてもテーブルの回数に沿って給与が出る。額は本番嬢の半額程度だという。人気嬢が、売れないコを食わせている構図だ。月収は、売れっ子の場合は、例えば週3日勤務であれば最大140万円前後と推測される。
ところで、人気のコは気配りがある、性格がいいなど付加要素があるのだろうか?
「いえ、見た目が一番いいコです」
身も蓋もないが、韓国で風俗に行く場合、男同士で飲んだ帰りに皆で酔ってなだれ込むことがほとんどであるため、手っ取り早く顔で選ばれるのだとか。日本のようにルックスを補うための努力は必要ない。だがその半面、飛びぬけて稼ぐこともできないのである。
ちなみに韓国でもパパ活のような脱法売春もごくたまにあるが、「密室だと男が暴力的になることが多い」ことや、つい先日韓国全土を震撼させた「
n番部屋事件」のような事例につながることもあり、不特定多数と繫がるようなアプリでそうした脱法売春をする層はほとんど存在しない。店に在籍するか、太い人脈を得るかにかかっているようだ。
<取材・文/安宿緑>