若者の街、弘大でパフォーマンスをするダンサーたち。最近では就職にこだわらず、アルバイトをして自由に生きる大卒者も多い
韓国映画『パラサイト/半地下の家族』がアジア映画として史上初のアカデミー賞4部門を受賞し、韓国の存在が一躍、世界に轟いた。同映画は韓国社会の深刻な貧困問題を描き、観る者に衝撃を与えたが、そこでも描き切れないほどに実際の韓国社会には闇が溢れている。
IMF危機から20年以上、韓国を悩ませているのが若者の就職難だ。’19年にはわずかに回復したが、劇的に改善はしていない。そのため現在の20~30代はあらゆるライフイベントを放棄せざるを得ないという意味で「
N放世代」と呼ばれている(Nにはライフイベントの数を当てはめる)。学歴偏重、企業の賃金格差、女性差別など原因が複雑に絡み合い、解決策はいまだない。
街には疲れきった様子の若者も散見される。「アルバイトをしながら就活をするから慢性的に疲労が溜まる」(33歳・就活者)という
夢・就職・結婚・出産すべてを諦めざるを得ない若者の受難
このように、韓国社会で最もしわ寄せを受けているのが、若者だ。’50~’60年代生まれの親世代が子女の教育に全力を注いだ結果、国内の大卒者が8割となり過当競争が勃発。0.1%の大企業が一流大卒を優先的に採用するため、そこから溢れた若者たちは大卒にもかかわらず、必然的に中小企業や非正規職に就くしかなくなる。青年失業問題に詳しい梨花女子大学のホン・ギソク教授は「『あれだけ勉強したのに』『大卒なのに肉体労働なんて』という意識や、中小企業によるパワハラも社会問題化するなど複合的な要素も作用している」と話している。事実、大卒者の就職率は年々低下している。
(図左)大学卒業者の近年の就職率は60%台で推移(韓国統計庁)/(図右)大学・大学院卒業者の月収分布(韓国教育部’18年統計)
仕事がないので家を借りられず、結婚や出産は夢のまた夢
就職難の問題は結婚にも直結する。韓国の賃貸住宅は、退去時に返還されるものの数十万~数百万円のデポジットを前納する必要がある。だが、そもそも職がないため工面できず、「就職できない=入居できない=結婚できない」という構図が出来上がる。そのため「就職・恋愛・結婚」の3つを放棄する「3放世代」と言われていたが、昨今ではそこに「出産・家・趣味(夢)・人間関係」を加え「7放」とも呼ばれている。人間関係は、単に交際費がないなどが原因である。
「韓国では即戦力が求められるので、インターン経験が必須。でも、その効用もランダム」とミンさん
女子大生のミン・ハナさん(仮名・25歳)は「周囲の同世代はもはや、結婚を人生の重荷としか思っていません」と話す。大学を休学してのインターンや就活に数年を費やし、1か月前にようやく小さなIT会社に就職したイ・エナさん(仮名・27歳)は「本当は専攻していた福祉関係の仕事をしたかった。でも一流大卒でないと希望の職に就くのはほぼ無理。幼い頃から土日を犠牲にしてまで勉強しても、夢が叶うわけではない」と嘆く。給料は月額13万円ほど。生活費が足りず、週末は市場で野菜を卸す仕事をしており、「貧しさのあまり売春をするコも実は身近にいる」と話す。
下落の一途を辿る婚姻件数(韓国統計庁)。’83年までは晩婚だが、’84年生まれを境に急激に非婚化するという研究結果も出ている