ウェブ広告の闇。なぜ違法なサプリの広告が野放しになっているのか?

お金の流れと、この仕組みの核となっている企業

 違法広告サイトに関係した一連のお金の流れを整理する。おおむね以下の通りだ。 健康食品メーカー ↓ お金を払って宣伝を依頼する 広告代理店 ※ここが違法サイトを作る ↓ お金を払ってレコメンドウィジェット広告枠を買う レコメンドウィジェット広告運営会社  ここで重要なのは下記の2点だ。 1.薬機法違反で捕まるのは、実務的には健康食品メーカーのみである。 2.健康食品メーカーと広告代理店は多くの場合、零細事業者であり、潰して作り直すことは簡単である。  これまで行政は、薬機法違反サイトが発見された場合、その商品を「製造」している健康食品メーカーのみを処罰の対象にしてきた。しかし、この健康食品メーカーを作り直すことは簡単だ。健康食品メーカーは、「メーカー」といっても、生産工場を持っていないことが多い。OEMしているのだ。先ほどの図にOEMメーカーを書き加えると以下のようになる。 OEMメーカー ↑ お金を払って商品を作ってもらう 健康食品メーカー ※行政はこの会社を捕まえる ↓ お金を払って宣伝を依頼する 広告代理店 ※ここが違法サイトを作る ↓ お金を払ってレコメンドウィジェット広告枠を買う レコメンドウィジェット広告運営会社  「健康食品メーカー」の会社が行政に捕まって倒産したとしても、この仕組みが消滅することはない。新しい健康食品メーカーが出現して、またOEMメーカーに発注し、広告代理店に宣伝を依頼する。広告代理店は、また同じようにレコメンドウィジェット広告運営会社から広告枠を買う。結局のところ、健康食品メーカーを捕まえても、全体の仕組みは変わらない。  つまり、違法広告サイトが存在し続けている根本的な原因は、レコメンドウィジェット広告運営会社にある。レコメンドウィジェット広告運営会社の責任を問うべきではないだろうか。

薬機法第六十六条「何人規制」

 薬機法第六十六条に、通称「何人規制」と呼ばれている条文がある。違法な広告表現をした場合、その広告に関わったすべての企業が罰される、という趣旨の条文だ。  これまで行政は、実運用としては健康食品メーカーのみを処罰の対象にしてきた。しかし、この薬機法第六十六条が存在するので、レコメンドウィジェット広告運営企業は既に犯罪を犯している、と言える。行政は、レコメンドウィジェット広告運営会社へアクションを起こせる状況にある。

行政の介入やむなし

 このレコメンドウィジェット広告という商慣習は、とても新しいものだ。一方、行政の業務を変えるのは簡単なことではないだろう。だから、行政側の実運用として、この問題に即対応できないということは理解できる。  問題は拡大し続けている。薬機法の世界のみならず、インターネット広告に対する社会的信用は、ここ数年で急落し続けているように感じる。  筆者の感覚としては、今、インターネット業界は存亡の危機に瀕しているように思う。このままインターネット広告の信頼性が下がり続ければ、いつかその価値はゼロになる。広告の仕組みが役に立たなくなれば、広告以外のインターネット業界も、経済活動が激しく縮小するだろう。  冒頭で言及した業界団体であるJIAAは、この問題を解決する力を持っていないように見える。本来であれば、行政が介入する前に業界内の誰かが指揮を取り、業界内で健全化することが理想だ。しかし、その意思と実行力を合わせ持つプレイヤーが存在しない。  問題はここまで悪化してしまった。レコメンドウィジェット広告業界に自浄作用は無い。行政に介入して頂く他に道はない。 <文/土橋一夫>
twitter:@kazunii_ac 株式会社デトリタス 代表取締役。インターネット広告業界の不正対策事業を行っている。薬事法管理者・コスメ薬事法管理者、ソフトウェア開発技術者。 【運営事業】ヤクパト 薬機法違反・著名人肖像権侵害サイト検知システム/ストリス 不正PPCアフィリエイトサイト検知システム/薬機法チェックサービス 【主な実績】NHKクローズアップ現代プラス「追跡!“フェイク”ネット広告の闇」へデータ提供/サイゾー2019年5月号(4月20日発売号)「芸能人の肖像権侵害に薬機法違反 マツコや欅坂46も無断で登場「あなたにおすすめ」広告の闇」へデータ・コメント提供/元ブロガー。バリューコマース2016年上期ASコンテストでレビュー部門1位を獲得。
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