新型コロナ発生で話題の新興宗教「新天地」に韓国の若者が殺到する理由とは?元信者らを直撃<1>

新天地にハマる最大の理由、聖書の「比喩ほどき」

新天地の元信者で、現在は伝道師となっているキム・ソンインさん(仮名) 写真/安宿緑

 2015年に新天地を脱会し、2017年より九里教会で伝道師をしているキム・ソンインさん(仮名・28歳)は軍隊を除隊後、大学の友人を通じ「教授」を紹介された。キムさんは親切な教授にプライベートな相談をするようになり、やがて師と仰ぐまでになった。教授の周辺にいた学生らとも親しくなった。  「一緒に旅行にいったり、時には一緒に泣いてくれたりもして、すごく良くしてくれたんです。5か月ほど経ち、彼らが全員、新天地であることを知ったのですがその時には心理的にもう離れられなくなっていました。『新天地から出ると、地獄に落ちる。チャンスは一回だけだぞ』とも言われた。どこにも打ち明けられず、地獄に落ちないためには聖書の勉強をしなければと思ったんです」  新天地が他の宗派と異なる最大の特徴の一つに、『ピユプリ(比喩ほどき=解き)』というものがある。聖書の中でも特に難解と言われる「ヨハネ黙示録」の比喩表現を、独自の解釈で言語化し体系化したものだ。  多くの元信者が、この比喩ほどきが入信の強い動機になったと言及している。  代表例としてよく挙げられるのが、マタイ13章の「木」だ。  「からし種」を新天地では「種」とし、種を「神の言葉」、畑を「人の心」、木は「生まれ変わった人」、空の鳥「聖霊」と解釈している。そして、人(畑)が神の言葉(種)を受け輪廻転生し(木)聖霊(空の鳥)が宿るようになったと主張する。  この「種」が教祖の李萬熙氏を表していることは他との連関で暗喩されていく。ほか「神の七つの目」を新天地の7人の幹部、新天地の本拠地がある果川市を聖地と例えるなど陳腐な部分もあるが、原意と遠からず近しからずの絶妙なさじ加減で行われる解釈は、聖書に苦手意識を持っていた若いキリスト教信者らの心を掴んだ。  怪情報を希少性バイアスにより「新たな真実である」と信じ込んでしまう現象だ。キムさんも、あっという間に比喩ほどきにのめり込んでいった。  そうして約10か月後。両親に気づかれ、なじみの教会に連れて行かれ、牧師とともに説得された。  「最初は反抗しました。『これは神の試練。両親を新天地に連れて行かなければならない』とさえ思っていました。しかしなじみの教会で新天地の沿革、不法性、欠点など色々と聞かされるうちに、間違いだと確信するに至ったのです」  キムさんは一連の経験を振り返り、「有益だった」と話す。  「両親の僕に対する愛を改めて感じることができた。世の中には詐欺師も多いが、教会の牧師さんのような、偉人も多いということを知りました」。

キリスト教信者以外でも魅了される

 21歳のイ・ナムジュンさん(仮名)も、比喩ほどきに魅せられたうちの一人だ。  「友人からEBS(韓国教育放送公社)の記者と名乗る人を紹介され、幸福についての番組を作りたいので設問事項を作るのを手伝ってくれないかと言われたのがきっかけです。やがて聖書の勉強会に誘われて……。僕は生まれてすぐに受洗したのですが、昔から聖書の内容には疑問を持っていました。でも、インターネットで検索しても出所不明の情報ばかりで信用できない。そんなときに、新天地の聖書解釈は明快かつ論理的に感じられ、『神はここにいらした』と感激したんです」  比喩ほどきで、聖書の疑問点が「ダ・ヴィンチコードのように」一つ一つ腑に落ちていく過程は快感だった。誰も知らない暗号を知った気になり、誇らしかった。これまでは1%もわからなかったものが、99%納得がいった。  そしてイさん自身も身分を詐称して勧誘活動を行い、「いくつか成功はした」。  脱会した今となっては、「聖書の内容を切り貼りして歪曲していることに気がついた」という。  「比喩ほどき」に魅了されるのは、キリスト教の素地がある人だけでない。無宗教の状態から、5年間入信していたユ・スナさん(仮名・25歳)はこのように話す。  「20歳の頃に友人を通じて、延世大学の学生という年上の女性を紹介され、彼女に聖書の勉強をしないかと言われ、教会に通うようになりました。そのときはちょうど『私はなぜ生まれ、なぜ生きているのか』と思い悩んでいた時期。私は無神論者でしたが、聖書には、きっとその答えがあると思ったんです。後に知ったら、その女性が延世大学生であることは嘘だったのですが……」  その後、両親の介入により脱会。5年の間に、新天地のネガティブなニュースに触れる機会も多かったはずだが……。 「教団には新天地に関する批判的な情報をすべてシャットアウトし、反論する渉外部という部署があるんです。論理的なことはどうでもよく、不条理を感じてもそれは自分の信心が足りないから。神はいつでも正しいのだから……と自分に言い聞かせていくんです」  さらに彼らがハマった理由を深く尋ねてみる後編は近日公開予定。 <取材・文/安宿緑>
ライター、編集、翻訳者。米国心理学修士、韓国心理学会正会員。近著に「韓国の若者」(中央公論新社)。 個人ブログ
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