「触れてはいけないものとして扱わないで」 母親を孤立させる流産・死産の実態

軽視されてしまう「流産」

 流産は、死産とはまた違った角度からのケアが必要だ。妊娠12週以前の流産は、約15%の確率で起こると言われている。その確率の高さ故に、「流産はよくあることだから」と軽視され、心を痛める母親は多い。  不育症による複数回の流産を経験した共同代表・菅さんは「流産は、死産とは違ってとにかく軽視されやすいんです。お医者さんですら『よくあることだから』『運が悪かっただけ』と口にします。ただ、母親としては、大事な一つの命を失ったことに変わりはない。そんな簡単なことではないんです。辛い気持ちを抱えてもSOSを出しづらく、孤立してしまう母親は多い」と語る。  また、流産を軽視するが故に、失われている命は多いのではないか、と菅さんは語る。「不育症は、妊娠するものの流産・死産を繰り返してしまうもので、その約65%は「異常なし」、つまり原因不明と診断されます。しかし、原因がわかった人は、適切な治療をすれば出産まで辿り着ける人もいます。現在では一般的に、2回流産した場合、もしくは1回死産した場合に不育症の検査が勧められているけれど、1回流産した段階で不育症の可能性についても説明があってもいいのではないかと思う。検査を受けていないために自分が不育症であることを認識できず、何回も流産を繰り返すことは、お母さんの心身を不要に傷つけることになる。原因がわかりさえすれば助けられる命があるかもしれないのだから、1回1回の流産を軽視せず、積極的に検査を促してほしい」(菅さん)  不育症の治療では、金銭面のハードルも高い。「検査や治療に、高額な費用がかかります。助成金を出している自治体と、そうでないところがある。不育症に悩む夫婦の中には、助成金が出る地域に引っ越して治療を受けている人もいます。どこに住んでいても同じように支援を受けられるよう、自治体で統一して欲しい」(菅さん)  また、死産のように届けを出す必要がないことから、流産で苦しむ人たちをすくい上げる方法がないと言う。「妊娠12週以前だと母子手帳ももらっておらず、死産届を出すこともない。ひとつの命を、まるでなかったことのようにされてしまうことは課題」(小原さん)  赤ちゃんを亡くした経験のある母親の次の妊娠への恐怖心や妊娠中の不安をサポート・ケアしていく必要もある。「流産を何度も経験すると、妊娠するのが怖くなるんです。いざ妊娠すると不安に押しつぶされてしまう。病院でのカウンセリングや周囲の接し方一つで救われることもある。不安を完全に解消することは難しいですが、安心して次の妊娠に挑んだり、妊娠期間を過ごすには、テンダー・ラビング・ケア(Tender Loving Care)が必要」(菅さん)

流産・死産の問題にも「男女の構造的差別がある」

 これらの課題を考える上で「男女の構造的差別があると気づいた」と小原さんは話す。「流産・死産や不妊も、女性の問題だと思われている節がある。男性たちが『産む性』だったとしたら、不妊治療の助成金や流産・死産後の公的なサポート体制はもっと充実していたのではないか」  死産の子どもを戸籍に載せられないということも、出産した女性の意思を尊重されていないように感じる、と小原さんは語る。イギリスでは、妊娠24週以降であれば死産であっても、日本における戸籍に相当するものに赤ちゃんの名前を載せられるという。男性の権利がベースとなった社会システムであるという点においては、選択的夫婦別姓の問題とも近しいものを感じる。

「死をタブー視しないで」

 大切な人を亡くした悲しみを持つ人をケアすることを「グリーフ(悲嘆)ケア」と呼ぶが、流産・死産で子どもを亡くした人に対するケアが前提とされていないことにも課題意識を持っているという。 「グリーフケアに関する資格の講座を受けに行った際、流産・死産に関する言及が全くないことに驚きました。生きている時の思い出がある人を亡くす場合は、その思い出を大切にすることがケアに繋がるけれど、流産・死産の場合はお腹の中にいる時の思い出しかない。その場合にどうしたらより良いケアができるのか。まずはグリーフケアに関心のある医療従事者や保健師・心理士などの専門職の方にこの課題を認識してほしい」と小原さんは語る。  死を忌み嫌いタブー視するのではなく、オープンに話せる社会になってほしい、とメンバーの皆さんは口を揃える。今回当事者の皆さんのお話を伺い、女性である私自身もあまりに知らないことが多く、驚いた。  「Angie」のメンバーは、元々は個々で自助グループなどを立ち上げ活動をしていた。現在は、イギリス・アメリカをはじめ各国で行われている、短い人生でも家族に幸せを与えてれた赤ちゃんの命を称えるとともに、赤ちゃんを亡くした家族に心を寄せる国際的な啓発期間「Baby Loss Awareness Week」(毎年10月9日〜15日)を日本でも広めること、そして国際シンボルである「ピンク&ブルーリボン」の日本版ピンバッジを普及すること等を目的に活動している。  流産・死産で赤ちゃんを亡くす母親は、決して少なくはない。「不安を煽りたい訳ではない。このような現実があることを知って、もしも身近に当事者がいた時に何ができるかをほんの少しでも考えていただけたら、ひとりでも救われる人がいると思う」と話す小原さん。当事者を孤立させず心の回復を支えるためにも、まずは「知る」ということが何より大事だと感じた。 <取材・文/太田冴>
1
2
3