「触れてはいけないものとして扱わないで」 母親を孤立させる流産・死産の実態
「Baby Loss Family Support ‘Angie’(アンジー)」だ。赤ちゃんを亡くした親に対する精神的なケアの必要性を周知すべく、現在クラウドファウンディングを実施している。
社会的にまだまだ認知されていないこの問題の背景には、どのような実態があるのか。「Angie」の共同代表である菅美紀さん・小原弘美さんと、メンバーの平尾奈央さんに話を聞いた。
流産・死産で赤ちゃんを亡くした母親たちは通称「天使ママ」と呼ばれている。最近ではSNSを通じて「#天使ママ」で繋がる当事者が増えていると言う。
「子どもを亡くして初めて天使ママという言葉を知りました。キラキラネームだと揶揄され、言葉自体に偏見を持つ人もいるようだけれど、私たち当事者にとっては同じ境遇の人たちと繋がることのできるキーワード。大切な言葉です」(共同代表・小原さん)
流産や死産を経験して、一番最初に抱くのは「なんで私だけ」という気持ちだ。「同じ境遇の人たちの体験談を知ることで、私だけじゃないんだ、と思える。当事者同士の繋がりは、その後の心の回復にとても大切なんです」(小原さん)
もちろん、オープンに経験や気持ちを共有できる人ばかりではない。インスタグラムで「天使ママ」用のアカウントを作り、身近な人に見られない形で感情を吐露しているケースも多いという。
メンバーの平尾さんは、12年前に死産を経験した。「現在ほどSNSが普及していない時代で当事者との繋がりを見つけることもできず、10年もの間、自分を責め続けました」(平尾さん)
流産・死産をきっかけに、夫婦間の関係が悪化するケースも多い。「赤ちゃんを亡くした女性はなかなか日常生活に戻ることができず悲しみの渦中にいますが、旦那さんは周囲から『奥さんを支えてあげてね』と言われてしまう。
旦那さんも悲しいはずだけれど、仕事をすることで奥さんを支えなきゃ、と思うが故に、悲しみを押し殺して日常生活を送ってしまいがちです。母親は普段通り仕事をしている旦那さんをみて『どうしてあなたは悲しくないの?』と思ってしまう。悲しいすれ違いが起きてしまうんです」(平尾さん)
平尾さんの場合は、入院中に電話をした際、それまで一度も涙を見せたことがなかった夫が電話口で泣いているとわかり、「夫も悲しい思いをしているんだ」と気づくことができたおかげで、それ以降悲しむ素ぶりがみられなくてもすれ違いを避けることができたという。母親だけでなく配偶者にとっても、自分の子どもを亡くしたことに変わりはない。その悲しみが、夫婦の関係にまで亀裂を走らせるという悪循環に発展してしまうのだ。
死産により赤ちゃんが亡くなる件数は、年間約2万人に上ると言われている。妊娠12週以降の妊婦さんのうち、約50人に1人が死産を経験している、ということだ。死産となった場合も通常と同じく、陣痛を経て出産を行うため、母体には身体的な負担がかかるのはもちろんのこと、精神的な喪失感に見舞われ、のちの社会復帰を困難にするケースも少なくない。
一度は妊娠した命を、流産・死産や新生児死で亡くした親のケアは、十分でない。死をタブー視し、触れてはいけないことのように扱われること、または軽視されることにより、特に母親が社会的に孤立していくことは少なくないと言う。
現在、こうした問題に取り組むべく啓発活動に取り組んでいる団体がある。メンバー全員が複数回の流産、妊娠中期や臨月での死産を経験している
「#天使ママ」で繋がる当事者たち
流産・死産がきっかけで離婚に至るケースも
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