「確かに就労ビザは取得が厳しいですが、法令に従っているまっとうな企業なら難しくありません。そうした企業で働けるように、スキルを身につけて、移住計画を立てるのが重要です」
また、
弁護士選びが命運を分けるとも。
「実は、タイはいいかげんな弁護士も多い。そもそもビザの申請や延長は、各大使館や各県のイミグレーション事務所で対応が異なります。さらに、担当官によって法解釈が異なることもある。法令に長けていない弁護士では、対処や対応を間違えて、ビザの取得や延長ができないこともあります」(高田氏)
かつて高田氏が住んでいたアパート。’03年頃は不法就労の日本人が数人いた。インターポールが人身売買関連で、日本人の暴力団関係者を逮捕したこともある
観光関係の仕事で不法就労をしながら、約4年間在留する遠藤孝之さん(仮名・20代)も、無知な弁護士の被害者の一人。以前は観光ビザを更新して滞在していたが、知人の弁護士の勧めで’19年にタイ語学校に入学。就学ビザを取得するも、思わぬ落とし穴があった。
「弁護士はタイ語のテストはないと言っていたのに、ビザを延長するには、タイ語のテストを受ける必要があると言われました。僕はタイ語ができないので、覚悟しましたね(苦笑)」(遠藤さん)
結果的に、テストは名ばかりのものだったので、ビザは更新されたが、高田氏は「遠藤さんはラッキーだった」と指摘する。
「数年前に、観光ビザから就学ビザに切り替える外国人が激増しました。そこでタイ政府は、特に外国人が多いバンコクの語学学校の受講生には、ビザをあまり出さないようにして対抗しています」
’16年までタイにいた鈴木和夫さん(仮名・40代)は、不法就労&滞在がバレて逮捕された後、強制送還された過去を持つ。
「不法滞在していたのは、一度目の在留期間中だったから、’05年だったと思います。当時は旅行代理店で働いていて、ビザが切れて半年ほど放置していましたが、僕もまだ若かったし、今よりも厳しくなかったので、大きな問題になるとは思いもしませんでした」
その結果、鈴木さんは逮捕されて20日間ほど留置場で過ごした後、強制送還された。犯罪者に容赦がないのはどの国も同じだが、高田氏によると「強制送還されるケースは今はまだ稀」だという。
「不法就労している日本人の多くは、在留日本人のネットワークなどを使って危険を察知し、警察が動く前に国外へ退去しています。特に風当たりが強くなった今は、ボロを出さないように注意している人が多いのでは。ただし、商売が成功していると、妬まれて密告されることも」
首都警察本部を警備する警察官。以前は賄賂でなんとでもなったが、特にイミグレーション警察には賄賂がほとんど通用しなくなった
’18年、イベント関係の会社で働いていたとき、不法就労で逮捕された加藤裕二さん(仮名・30代)も、関係者の密告を疑っている。
「いきなり警察官がやってきて、『労働許可証を見せろ』と言ってきました。自分は手伝っているだけと言い訳をしたのですが、相手にされず……。ブラックリストに載ると5年は入国できないと脅されるがまま、調書が書かれました」
本来なら前科がつくはずだったが、懇意にしていたタイ人のオーナーが警察に賄賂を贈って無罪放免に。「賄賂を受け取る警察官が減った今のタイでは珍しい」と、高田氏も驚く強運ぶりで加藤さんは事なきを得たが、タイは思いつきで移住できる、「外こもり」の楽園ではなくなってきているのだ。