仮放免で立ち会った駒井知会弁護士。ダヌカさんの仮放免を喜ぶ
3月12日に行われる、法務省の出入国在留管理庁(以下、入管庁)の収容所の一つ「東日本入国管理センター」(茨城県牛久市。以下、牛久入管)に収容されている、ダヌカさん(スリランカ国籍・37歳)の仮放免更新手続きが支援者の間で注目されている。
ダヌカさんは2019年12月26日、「仮放免」(収容を一時的に解く措置)された。実に約2年半ぶりの外出だ。それなのに、表情は沈んでいた。
かつて70kgあった体重は47kgに落ち、長時間歩くことができないため、職員が押す車椅子に乗って現れた。この日を待ち望んでいた日本人婚約者のAさんが駆け寄り肩を抱く。だが2019年9月に「うつ病」と診断されたダヌカさんは、筆者が初めて彼に面会した2018年に見せた利発さはなく、ただ軽くほほ笑むだけだった。
それでも仮放免されたことは、とりあえずはよかったと言うしかない。というのは、入管施設では年末年始の9連休は医療従事者が不在となり、医療の一切が受けられないからだ。それでは、衰弱しきったダヌカさんが「本当に死んでしまう」とAさんも支援者も本気で心配していた。
12月26日に仮放免されたばかりのダヌカさんの手を婚約者のAさんが握る
1998年、ダヌカさんは16歳で初来日。ブローカーの「未成年では日本のビザを取得できない」との説明を信じ、成人のP氏名義の偽造パスポートで入国した。その後10年間、土木工事や溶接の現場で働くが、2008年、不法滞在が発覚し強制送還された。
このとき入管は、P氏名義のパスポートからダヌカさんをP氏と認識し、ダヌカさんも「面倒にならないように」と本名を明かさず帰国した。この時点では、問題の原因の一端はダヌカさんにもある。ダヌカさんは帰国後、貿易会社を設立。そして2010年11月4日、「スリランカと貿易したい」との日本人Yとの商談のために再来日した。このときは本人名義の正式パスポートと90日間のビザを携え入国した。
だが、Yの会社は詐欺目的の架空会社だった。Yはダヌカさんを3週間軟禁し、500万円の出資を強要。さらに、ダヌカさんの過去を知るYは警察と入管にダヌカさんを売った。Yは入管での面会でダヌカさんに「私に金を預ければ出してあげる」と話を持ち掛け金を騙し取ろうとした(ダヌカさんは断ったが)。
問題は、日本政府にすれば、「P氏がダヌカ名義のパスポートで入国」と認識したことだ。ダヌカさんは、出入国管理法違反での刑事裁判を受け懲役2年の実刑を受けた。
スリランカ大使館が「本人です」と証明したのに収容は続いた
ダヌカさん名義のパスポート。スリランカ大使館は、これが間違いなく本人のものだと認定している
だが事態が変わる。服役中の2012年、ダヌカさんの訴えに応じ、在日スリランカ大使館が「彼は間違いなくダヌカ本人だ」との証明書を出したのだ。本来は、そこでダヌカさんは堂々と帰国できるはずだった。ところが、日本政府は、ダヌカさんをあくまでも「P氏」として2013年3月に横浜刑務所を出所しても即時に東京出入国在留管理局(東京都。以下、東京入管)に収容した。
8か月後の11月にやっと仮放免されるが、その生活に光が差したのがAさんとの出会いだった。2人は恋に落ち、婚約をし、一緒に住み始める。Aさんの両親もダヌカさんの人柄をほめた。だが--。2017年7月6日、仮放免の更新手続き(およそ2か月ごと)に臨むために東京入管に出頭すると、ダヌカさんは理由も告げられず、更新の不許可を告げられ、その場で東京入管に収容されたのだ(数か月後に牛久入管へ移送)。