マスコミが報道しない、羽田空港新ルートの被害。品川区では区民投票も

1分20秒ごとに都心を低空飛行する航空機

スタート集会

スタート集会会場は定員の倍以上の約150人もの住民が集まった

 1月18日、定員70人の部屋は倍以上の約150人で埋め尽くされ、なんとしても羽田空港の飛行新ルートを撤回するとの熱気を帯びていた。その多くが東京都の品川区民だ。 このままだと、来る3月29日から、都心を低空飛行する飛行機による騒音のなかで区民は生きることになる。  それを回避するためにも、市民団体「品川区民投票を成功させる会」(以下、「成功させる会」)は「住民投票」で区民の意思を区に提示したいと考えた。だが、品川区には「区民投票条例」がない。そこで始まったのが、その「区民投票の条例制定を求める」という運動で、1月18日はそのスタート集会だった。  羽田空港を離発着する飛行機は、都心の騒音を避けるため、原則として「海(東京湾)から入って海に出る」ルートを取っている。だが今年3月29日から、それに加えて「陸から入って陸に出る」ルートの運用が始まる。国土交通省の説明によれば、増え続ける外国人観光客への対応策として、羽田空港での増便を可能にするための措置である。  羽田空港には、南北に延びるA滑走路とC滑走路、そして東西に延びるB滑走路とD滑走路がある。従来はBとDが着陸に使われてきたが、新ルートでは南風の吹く15時から19時のうち3時間に限り、羽田に向かう飛行機は埼玉県から南下して東京上空に入る。  その都心ルートは羽田に近づくほどに低くなり、品川区で300m、大田区で150mと想定されている。その着陸回数はAに1時間当たり14本、Cには30本と計44本。約1分20秒ごとに1便が都心を低空飛行することになる。  出発便も、南風時の同じ時間帯でBから1時間に20便が離陸し、川崎コンビナート上空を通過して海に抜ける。そして北風時には、7時から13時半、そして15時から19時の間の3時間を使って、Cから1時間あたり23便が江東区や江戸川区の上空を通って北上する。
新ルート反対のパレード

2019年9月21日に行われた新ルート反対のパレード

住民に押し付けられる「騒音」と「落下物」不安

 2014年7月8日にこの計画が明らかになると、すぐに新ルート直下では反対運動が起きた。理由は二つ。「騒音」と「落下物」への不安である。  埼玉県から南下する飛行機は東京都北区に約1200mの高度で進入するが、徐々に高度を下げ、新宿区で900mを飛ぶが、このときの騒音は70デシベル(db)以下、渋谷区で750m(同75db以下)、港区で450m(同75db)、品川区では東京タワーよりも低い300m以下(同80db以下)、最後の羽田空港を有する大田区では150m以下まで高度を下げて空港に着陸する。  70dbとは、1m以内の距離でも大声で話さなければならないほどの騒音レベルで、80dbともなるとパチンコ店内のレベルと言われている。また、飛行機は毎年のように、部品やパネル、はたまた上空で機体に付着した氷を落下させている。国交省によると、2017年11月から2019年10月までの2年間で、国内の主要7空港に離発着する航空機から1180個の部品が欠落(落下)している。  大きな事故としては、2018年9月には、大阪市でKLMオランダ航空の胴体パネルが落下し、車を直撃。また2019年5月25日には、熊本空港を飛び立ったJAL機から98個の部品が落下し、そのいくつかで病院の窓ガラスが破損した。  これが人口密集地帯である都心ではより頻繁に起きるのではないのか。その不安から、ルート直下では新ルートに反対する10以上の市民団体が発足し、署名、国交省と交渉、デモ、集会、区議会への陳情などやれることはすべてやってきた。  だが、それら運動が国交省の方向性を変えるには至らず、それどころか、国交省は多くの住民が反対していることを知りながらも、2019年8月8日、「住民の理解を得た」として2020年3月29日からの都心の低空飛行を発表したのだ。住民に残された最後の手段が「訴訟」と「住民投票」だった。
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品川区では「区民投票」も
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