伊方原発3号炉インシデント、報道と公式発表を見て湧く疑問と課題

共同通信による第一報には問題がある

 共同通信による初報の「ほぼ全ての電源が数秒間喪失」というものは誤りであることは判明しています。速報であってもこのようであるべきでしょう。 【元文】“四国電力によると、伊方原発内のほぼ全ての電源が数秒間、喪失した。” 【修正案】“四国電力によると、伊方原発の外部電源が遮断されるインシデントが生じた。1,2号機では、ただちに予備の外部電源へ切り替わった。定期点検中の3号機では、すべての外部電源を喪失し、10秒後に非常用ディーゼル発電機が起動した。”  福島核災害では、原子力工学の高名な学者や原子力産業関係者ですら原子力発電所の電源喪失についてまともな知識を持たない人がたいへんに多く、大きな混乱を生じました。そのため翌年、原子力学会が特集記事を学会誌に掲載しています。 ●全電源喪失について 岡本孝司 日本原子力学会誌 Vol. 54, No. 1(2012)  紙面の都合があり、内容についてはおのおのご一読ください。  共同通信配信記事の最大の問題点は、「ほぼ全ての電源が(中略)喪失した」というところで、これは工学的な正しさから逸脱しています。またその後現れた「(一時的な)全交流電源喪失」は、13秒以内にDGが起動しており事実とは異なります。非常用DGは、13秒以内で電圧確立するように設計されており、その間は設計の範囲内です。この13秒間を全交流電源喪失とするのは工学的には正しくありません。この場合、DG起動の大きな遅延を「一時的全交流電源喪失」、DG起動失敗を「全交流電源喪失」と称します。  今回の重大インシデントは、単純に外部電源を喪失し、DGが起動したというインシデントそのものではなく、伊方発電所がいまだに持つ脆弱性が顕在化した点が重要です。そのことには極めて高い報道の重要性がありますが、それは続報で追求するものであって、初報は原子力防災において極めて重要ですので曖昧さによっていくらでも拡大解釈できる表現は金輪際やめていただきたいです。  この初報は、どのような四国電力のプレスリリースがどのように伝わり、どのように解釈され、配信されたかについて検証を要します。

連絡と報道は遅かったのか?

 今回のインシデント発生は、2020/01/25 15:44です。共同通信による初報が23:06ですので、7時間22分遅れており、これは非常に遅いと言うほかありません。  しかし、愛媛県の原子力情報を見ますと「1月 25 日(土)16 時 32 分、四国電力(株)から、伊方発電所の異常に係る通報連絡がありました。」とされています。 ●伊方発電所における所内電源の一時的喪失について 2020/01/25愛媛県原子力安全対策推進監  愛媛県への情報伝達は48分後ですので、問題は無いと思われます。その後6時間30分、報道までの空白があったことは大きな問題です。四国電力からの初報がインシデント発生から1時間以内に愛媛県に伝わりながら7時間以上遅れた事は不可解で、その間に18時19時21時、22時、23時のTV報道の機会が逃されています。この情報流通の悪さは要検証でしょう。  公開情報だけを見ると、1/25 22:40頃に愛媛県庁で四国電力が発表*を行っています。これはインシデントから約7時間経過し、四国電力から愛媛県への連絡から6時間を超えています。なぜ愛媛県庁に知らせたあと、6時間も報道発表に時間を要したのかは検証し、改善すべきでしょう。今回の報道発表遅延は、四国電力と愛媛県の信頼を大きく傷つけます。少なくとも重大インシデントの情報が県庁内で6時間も滞るようでは、原子力防災計画など全く体をなしていないと言うほかありません。〈*伊方原発で一時、全交流電源を喪失, 2020/01/26 愛媛新聞|“伊方原発でトラブルが相次いでいることを謝罪する四国電力の渡部浩・原子力本部付部長(左)ら=25日午後10時40分ごろ、愛媛県庁”写真キャプションより引用〉
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検証すべきは山ほどある
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