ドイツには「寒さをガマンして暮らす」という発想がない
パネルヒーター
ドイツに限らず、欧米では広く暖房に温水を使ったパネルヒーターが使われています。石油やガスなどを使って給湯をして、家中にめぐらせたパイプを通してパネルを温めるシステムです。
戸建てでも賃貸でもたいていこのシステムが入っていて、すべての部屋を温かくするのが常識なので、部屋ごとに極端に温度差があるという状態にはなりません。これを全館暖房といいます。
もちろん全館暖房を続ける条件には、建物の断熱性能と気密性能が高いレベルであることが必要となります。断熱がほとんどされていない建物で全館暖房をしようとしても、光熱費がとんでもなく高くなってしまいます。全館暖房と、家の断熱気密性能はセットで考えることが必須となります。
さて、ここでようやく冒頭のエピソードの続きを話します。ドイツの人たちは、なぜ「断熱して温かくなった」と答えてくれなかったのでしょうか? その理由は、断熱する前からちっとも寒くなかったからです。
光熱費については、以前は高かったけれど、断熱したことでそれが半分になったと答えてくれました。家計にも、そして社会の省エネという意味でも断熱が非常に有効であることはわかります。
でも国が熱心に断熱改修を進める以前から、ドイツには「寒さを我慢して暮らす」という発想がありません。暖房費用がかかったとしても、寒くてたまらない生活を続ける人はほとんどいません。だから実感として「暖かくなってよかった」というコメントが聞けないのは当たり前だったのです。
「省エネのために寒さや暑さをガマンする」という発想がない人たちに対して、「断熱して暖かくなりましたか?」などと聞くのは、トンチンカンなことだったのです……。日本でもそれを常識にしていきたいところです。
東ドイツ時代の生活を伝える博物館で。窓は樹脂サッシにペアガラスが使われている
ちなみにドイツでは、国として熱心に断熱改修を進める以前から、住宅の省エネレベルはいまの日本の住宅の省エネ基準よりもレベルが相当高いものでした。例えば現在も日本の既存住宅の多くで使われているアルミサッシの窓枠などは、ドイツでは以前から使用されていません。旧東ドイツ時代の団地でも、ごく普通に樹脂製のサッシとペアガラスが使われていました。だから、もともとめちゃくちゃに寒いというわけではなかったのです。
ドイツが断熱に力を入れているという話をすると、「ドイツと日本とでは寒さのレベルが違うから比較できない!」と反応されることがありますが、それは間違いです。
冬の各都市の平均気温で比べてみると、ドイツ南部のフランクフルトや、ドイツ北部のベルリンと比べても、北関東や長野は同じ程度です。北関東や長野は、日本の中でそこだけ特別寒い地域というわけではありません。
つまり「ドイツは極端に寒いから断熱している」というよりも「日本は寒いのに断熱していない」というのが事実と言えます。それによってエネルギーを浪費し、海外から高い燃料を買わされた上に、寒さで健康を害する人が多い状態は、改善していかなければなりません。