さて、一見して科学知見を、意図してか意図せずして誤用している経営者の方々がいますが、経営者の中には明らかに自己顕示欲や承認欲求を満たすために科学から生み出された言葉を乱暴に取り扱う人もいます。それは科学者や知識人の述べた・書いたことの無断使用です。
評論文(高校受験や大学受験の現代文の問題に採用される文章が典型的です)には、現代の複雑な問題を理解したり、世の中をよりよく理解するための視点が、秀逸なたとえ話とともに説明されます。
そうした現代評論に書かれているたとえ話ですが、有名なものは様々な媒体で繰り返し使われることがあります。問題なのは、その話をあたかも自分で考え出したかのように使う経営者がいることです。たとえ話を紹介することがダメなのではなく、自分の創作ではないのに自分の創作だと人に思い込ませ、伝えていることが問題です。
実名は避けますが、某経営者によって書かれた書籍の中に、ある現代評論に書かれているたとえ話が、あたかもその経営者が考えたかのように書かれているのを目にしたことがあります。
そのたとえ話がやはり秀逸だったのでしょう。その話は、その経営者とは異なる方が書いたある書籍に、その経営者の言葉として引用されているのを見つけたことがあります。その言葉を引用した著者は、自分を賢くみせる経営者の手口に引っかかってしまったのでしょう。
過大な自己顕示欲・承認欲求は科学の乱用・誤用につながります。こうした欲求の強い経営者の口から発せられる科学的という言葉には気を付けましょう。
次回は4回に渡ってお送りして来ました本シリーズの最終回です。科学的・心理学的という言葉を多用するインフルエンサーの不都合な真実<5>~Youtuber・知識人タレント・その他エンターティナー編~をお送り致します。
<文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。