いかがだろうか。冒頭に示したように、立憲民主党の枝野幸男代表が「党派を超えて、数年に一度の素晴らしい質疑だったと思います」と評したことも、納得いただけるだろう。
安倍首相らは「功績・功労」「名簿は廃棄」「個人に関する情報」「セキュリティ」等の説明によって田村議員の追及をかわそうという作戦だったのだろうが、田村議員は、
証拠・証言をつきつけることによって、安倍首相らが言い逃れに終始していることを浮き彫りにさせた。
この田村智子議員の質疑は昨年10月13日の「しんぶん赤旗」日曜版のスクープ記事の情報をもとにしたものだったが、そこで得られていたすべての情報を最初から提示して質疑を行ったわけではない。最初は萩生田大臣が後援会関係者を「お招き」していたことを問い、次に安倍首相に、自民党の中で招待者を割り振っていたのではないかと問い、「招待者の取りまとめ等には関与していない」という言質を得た上で、安倍事務所が参加者を募集していたという証言をつきつけていった。次第に外堀を埋めていく、組み立ての巧みな質疑だった。
この質疑の組み立ては、「しんぶん赤旗」日曜版の山本豊彦編集長によれば、田村議員が秘書や事務所スタッフらとよく議論をして準備したものだそうだ。安倍首相が出席する参議院の予算委員会であり、NHKのテレビ中継も入っていた。
山本編集長は、1月6日の筆者との対談でこう語っている。
「やっぱり国会質問っていうのは、国民の前で、特に今回なんかテレビの中継をやっていましたから、きちんと今の安倍政権の実態を示すっていう非常に重要な国会議員の場なんで、特に国会質問っていうのは非常に準備して」
そして、その準備段階では、証拠・証言を集めるだけではなく、相手の出方を見通していかに質疑を組み立てるということも重要だった。山本編集長はこう語る。
「国会質問をする際に、よーく準備をするっていうことはどういうことかというと、相手が必ず、まあ、こう言ったらこう反論してくるっていうのが、やっぱりこう、きちんとレクとか聞いてるとわかるんですよね。
だから、それを覆す材料を持って、質問する。よく、質問自身を準備しないと、いい材料があっても、なかなかうまくいかない、その辺が非常に大事なのかと」
「レク」とは、事前に官僚に関連質問を行い、説明を求めることだ。国会答弁と同様に、官僚が率直に質問に答えるわけではないのだが、国会でもこう答えるだろう、ということが、そのレクによって予想できるようになる。それをもとに、質疑の組み立てを準備したということだ。
それによってこの質疑を聞く私たちは、だんだん真相が明かされていく面白さを味わうことができ、また、「功績・功労」や「個人に関する情報」「セキュリティ」といった説明が、いかに空疎で不誠実な説明であるかを聞きながら理解することができたわけだ。
「しんぶん赤旗」日曜版は、どのように問いを立てたのか
以上、まずは昨年11月8日の参議院予算委員会における田村智子議員の30分にわたる質疑そのものの内容と組み立てを確認した。次回は、ではこの質疑で紹介された参加者のブログなどのネット情報や現地の関係者の証言はいかにして得られたのかを見ていきたい。
その際に重要なのは、後援会関係者が「桜を見る会」に大挙して参加していたということに、そもそもなぜ山本編集長が問題意識をもてたか、という点だ。
実は、「桜を見る会」の支出額と参加者数が膨張していたことは、昨年4月16日の東京新聞「こちら特報部」が取り上げており、その記事をもとに日本共産党の宮本徹議員が昨年5月13日と5月21日に国会で質疑を行っている。昨年の名簿が廃棄されたのは、宮本議員が質疑に向けて資料要求を行った5月9日当日のことだった。
しかし、この昨年4月と5月の段階では、「桜を見る会」への安倍首相の後援会関係者の大量招待という問題は、論点として浮かび上がってきていなかった。これは、山本編集長が、疑問をもち、取材をしていく中で、つかんでいった論点だった。そのことを次回は紹介していきたい。
また、1月6日の対談時には私は気づいていなかったことだが、安倍首相らは昨年11月8日の田村議員の質疑に臨む際に、当然、昨年10月13日の「しんぶん赤旗」日曜版がスクープを打ったことは知っていたはずだ。質疑の場になって初めて、ネットの証拠や現地の証言が紹介されたわけではない。
にもかかわらず、質疑の最初の方では、「各界において功績・功労のあった方々を各省庁からの意見等を踏まえて幅広く招待しております」などと、安倍首相も萩生田文部科学大臣も大塚官房長も繰り返していた。それはなぜか。
山本編集長によれば、昨年10月13日に「しんぶん赤旗」日曜版がスクープを打ち、大手紙に「ぜひ、一緒にやろうよ」と呼びかけたにもかかわらず、なかなか大手紙は載ってこず、どこも取り上げなかったという。
「今回はね、私たちはそれなりにこう、苦労して、それなりに渾身のスクープとして出したんですけれど、全く相手にされず、非常にがっくりきましてですね。
だから官邸なんかも、あんまり各紙もやんないからと、あんまり危機感がなかったんですよね」
と山本編集長は対談で語った。
このように大手紙が後追いしなかったことから、官邸は緊張感をもっていなかったというのが山本編集長の見立てだ。
つまりここには、なぜ大手紙は「しんぶん赤旗」日曜版のスクープを見ても問題意識を持てなかったのか、という問題が存在する。この点については、第3回の記事でとりあげたい。
<文・上西充子>