このままでは横浜カジノは止められない。住民投票とリコールの足の引っ張り合いを防ぐための提言

明らかになってきたタイムリミット

 タイムリミットを含む時間的な制約も徐々に明らかになってきた。 <時間的な制約> ・昨年11月の報道により、カジノを含む統合型リゾート(IR)の自治体からの申請は2021年1月4日から受付開始と観光庁が発表した。これまでの林市長のカジノ推進に向けた強硬な姿勢を踏まえれば、2021年の年明け後、申請開始日の1月4日に申請する可能性も十分に考えられる。つまり、実質的には前月の2020年12月がカジノを止めるタイムリミットだと捉えられる。 ・このタイムリミットである2020年12月の時点で、市長の解職請求まで進んでいれば、カジノを止められる可能性が出てくると考えられる。カジノ推進を理由に市長の解職請求がされている状態で、カジノを含むIRの申請を進めることは政治的にも困難と想定されるため。 *この解職請求は、図2「2.市長の解職請求(リコール)の流れ」で署名の収集、審査、縦覧の後に位置するフェーズであり、肝心の解職投票はまだ実施されていない状態。この時点で解職投票および解職まで進んでいればさらに望ましいが、後述の予想スケジュールで検討した結果、日程的に不可能と考えられる。 ・署名収集の開始時期は、昨年12月26日時点の東京新聞報道によると、住民投票条例の制定は遅くとも2020年5月の見込み。市長の解職請求(リコール)は2020年7月の見込み。 ・横浜市会の2020年の詳細な日程は未定だが、昨年までの実績を踏まえると、年4回の定例会が以下の期間に開かれている。議決はこの定例会の期間中に行われる。つまり、横浜市会での議決を必要とする住民投票条例の制定はこの年4回の定例会日程も考慮する必要がある。 ・第1回定例会(1月下旬もしくは2月上旬〜3月下旬) ・第2回定例会(5月中旬〜6月上旬) ・第3回定例会(9月上旬〜10月中旬) ・第4回定例会(11月下旬もしくは12月上旬〜12月中旬)

すでに破綻している住民投票のスケジュール

 この時間的制約を加味して、予想されるスケジュールを詳細化していくと重大な問題点が2つ浮かび上がってきた。 <問題点①:住民投票の議決は早くても2020年12月の第4回定例会。第4回定例会で住民投票の否決、IR申請の可決が行われると2021年1月のIR申請受付を防げない>  住民投票条例の制定に絞って、予想されるスケジュールを下図「4.住民投票の予想スケジュール(住民投票の署名収集開始が5月の場合)」に整理した。
住民投票の予想スケジュール

図4:住民投票の予想スケジュール

2020年5月1日:住民投票の署名収集を開始 同年5月〜6月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間) 同年7月〜8月末ごろ:署名の審査期間(約2ヶ月間と仮定*) 同年9月1日〜7日ごろ:署名の縦覧期間(7日間) 同年12月:議会で住民投票条例の制定は否決し、IR申請は可決 2021年1月:IR申請 (厳密には、この他にも細かい手続きは存在するが省略) 〈*約46万5千筆の署名を集めた平成22年の名古屋市議会リコールの審査期間が約2ヶ月であったことを踏まえ、50万筆の署名を目指すとする今回の住民投票も同程度の2ヶ月を要すると仮定した 。下記の参考記事で住民投票について「50万人の署名を集め、市選挙管理委員会に提出するスケジュール案を掲げた」との記載あり(参考記事:神奈川新聞「「市民の怒りは広くて深い」 カジノ反対、リコールも視野」(2019年12月11日)〉  8月に住民投票条例の制定の署名審査完了と仮定する。請求受理から議会招集までの猶予期間(努力規定で20日以内。市長による時間稼ぎの恐れもあり)などを考慮すると、 第3回定例会(9月上旬〜10月中旬)には間に合わないだろう。従って、住民投票条例の制定は第4回定例会(11月下旬もしくは12月上旬〜12月中旬) で議決されることが想定される。カジノ推進派の林市長や自公の市議はこの第4回定例会で住民投票の条例制定を否決する一方、IR申請は可決することが可能となってしまう。つまり、現在の予定通りに2020年5月1日に住民投票条例の制定の署名収集を開始した場合、それはカジノを止める上で何の役にも立たない可能性が高い。  さらに言えば、立憲民主党・神奈川県連合は「リコールも視野に、横浜でのカジノ誘致撤回へ!」と題したPoliPoliのプロジェクト説明において、住民投票が議会で否決された後に市長リコールへ進む線表を描いているが、この立憲民主党・神奈川県連合が描くスケジュールは完全に破綻していると言わざるを得ない。スライド4枚目で説明した通り、2020年の第4回定例会(11月下旬もしくは12月上旬〜12月中旬)で住民投票条例の制定の議決結果(否決の見込み)が明らかになった後、約1ヶ月後の2021年1月4日には林市長はIR申請が可能なため、住民投票の後に市長リコールを新たに始める時間的余裕は無い。 <問題点②:住民投票とリコールの動きが完全に矛盾>  さらに、同時並行で別団体が進めている市長リコールの動きも絡めると、2つの活動の整合性について致命的な問題が見えてきた。住民投票条例の制定と市長の解職請求(リコール)の2020年5月〜10月までに予想されるスケジュールを下図「5.住民投票とリコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始が5月の場合)」に整理した。
住民投票とリコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始が5月の場合)

図5:住民投票とリコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始が5月の場合)

<住民投票> 2020年5月1日:署名収集を開始 同年5月〜6月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間) 同年7月〜8月末ごろ:署名の審査期間(約2ヶ月間と仮定) 同年9月1日〜7日ごろ:署名の縦覧期間(7日間) <リコール> 2020年7月1日:署名収集を開始 同年7月〜8月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間) 同年9月〜10月末ごろ:署名の審査期間(約2ヶ月間と仮定) (厳密には、この他にも細かい手続きは存在するが省略)  2020年7月〜8月に着目してほしい。  住民投票と市長リコールの動きが完全に矛盾していることにお気づきだろうか?  住民投票条例の制定は、市長に対して「住民投票条例を制定すべき」という提案であり、市長にいったん判断のボールを渡すことを意味している。一方、市長の解職請求(リコール)は市長を問答無用でクビにすることを目指している。  つまり、市長に判断のボールを渡そうという住民投票の署名を審査している真っ最中、その市長を問答無用でクビにする署名集めを開始するという矛盾が2020年7月に起きると予想される。こうした矛盾をカジノ反対派の内部で抱えたまま、必要署名数を達成できるのか心配される。  しかも、この時期は東京オリンピック(7月24日〜8月9日)の喧騒も重なり、国内メディアはオリンピック一色の報道になることが予想され、テレビや新聞による署名集めの盛り上がりはあまり期待できない。ただでさえ市長の解職請求(リコール)の必要署名数は約49万筆(有権者の約6人に1人)と膨大なため、市民が一丸となって取り組まなければ達成は難しいだろう。
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以上を念頭において「提言」
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