国会パブリックビューイングから振り返る今年の国会の論点

「多様な働き方」の促進

 4月9日に国会パブリックビューイングは、4月から施行となった「働き方改革関連法」を改めて取り上げた。 ◆【街頭上映】「多様な働き方を選択できる社会」とは!? 働き方改革関連法の4月施行を受けて (解説:上西充子・伊藤圭一)(新宿西口地下)(2019年4月9日)  「働き方改革」という言葉は、仕事の効率化による長時間労働の是正の文脈で理解されていることが多いが、2018年6月に成立した働き方改革関連法案は、長時間労働の是正を目指したものではなく、「多様な働き方を選択できる社会」の実現を目指したものであり、その含意は労働基準法の規制に制約されない働かせ方を広げるところにあったというのが、この日の街頭上映で伝えたかったことだ。  労働市場を市民プールにたとえてみると、一般レーンと上級者レーンのうち、上級者レーンの数を増やして一般レーンを減らしていくことが、働き方改革関連法で目指されていた。 働き方  ここでいう「上級者レーン」とは、労働基準法の労働時間規制の適用が除外されていたり、一部しか適用されていない働き方を指す。昨年の法改正で新たに導入された高度プロフェッショナル制度は、労働基準法の労働時間規制を適用除外するもので、つまりは使用者が1日8時間・週40時間の上限やそれを超える残業についての割増賃金の支払い義務などの規制を気にせずに従業員を働かせることを可能とするものだった。拡大がねらわれ、昨年は断念された裁量労働制もそうだ。  法案審議の中で、政府はこのような労働時間の規制緩和については質疑で問われてもできるだけ言及を避け、初めて時間外労働について罰則つきの上限を設けるのだという意義を強調したが、それは上の図で言えば「一般レーン」について新たな規制を設けることを意味している。他方で、その規制の対象外である「上級者レーン」の数を増やして、労働者がそちらを選ばざるを得ないように誘導されるならば、上限規制の意義は薄れる。  「多様な働き方が選択できる社会」と、あたかも働く個々人の「選択」の問題のように見せながら、実際には労働法の保護が薄い働き方を選ぶ方へと誘導していくことが、「働き方改革」の名のもとに目指されている。そのことに注意を向けたかった。

「雇用によらない働き方」という欺瞞

 この日の街頭上映では詳しく取り上げていないが、上の図の左側は「雇用によらない働き方」で、これは労働基準法の規制の対象外の働き方だ。労働基準法によって守られない世界での働き方であるという意味で、荒波の海にたとえてみた。  この「雇用によらない働き方」も、政府が「働き方改革」によって促進しようとしているものだが、このところ、この働き方のマイナス面に焦点が当たるようになってきた。  ウーバーイーツの配達員の報酬単価が一方的に切り下げられた、というのがその一例だ。11月20日、ウーバーイーツの配達員にメールで伝えられたのは、29日から東京都区内の配送1キロメートル当たりの単価が150円から60円に引き下げられるとの変更。10月に結成された労働組合「ウーバーイーツユニオン」は団体交渉を申し入れたが、ウーバー側は配達パートナーは個人事業主で日本の労働組合法上の「労働者」に該当しないとの見解を示し、団体交渉に応じていない。 ●「距離単価6割減 ウーバーイーツ配達員組合が都労委に救済申し立てへ」(毎日新聞電子版、2019年12月7日)  12月13日にはケン・ローチ監督の映画「家族を想うとき」が公開され、「雇用によらない働き方」がどのように本人と家族を追い詰めていくのかがリアルに描かれていることが話題となった。  主人公は個人事業主の位置づけの宅配ドライバー。しかし、端末機器で分刻みに管理され、休みを取りたいと願い出ても代わりの人を探せばいいだけと耳を貸してもらえず、配達に出向けなければ罰金がかさんでいく。暴漢に襲われ端末機器を壊されても本人に罰金が請求される。配達のために頭金を支払って車を購入している主人公は、だんだん逃げ場がなくなる。そんな物語だ。  新聞各紙では、この映画を単に作品として紹介するだけでなく、雇用関係のもとでの責任を逃れるために個人事業主の扱いにされた労働者の問題としても、とりあげた。 ●「<働き方改革の死角>社員は消滅する」(東京新聞、2019年12月14日朝刊)  筆者は12月2日に、「わたしの仕事8時間プロジェクト」が主催したこの映画の試写会とディスカッションの場に参加した。追い詰められた主人公の姿をエンディングに示して終わるこの映画は、一人で見るだけでなく、誰かとその内容について語り合うことに意味があると考えている。  この日のディスカッションでは、参加者が5人ほどのグループで語り合った。その上で、ウーバーイーツユニオンの結成を働きかけた川上資人弁護士、コンビニの労働問題に取り組むジャーナリストの北健一氏、アメリカの労働組合と地域運動の連携の動きに詳しい菅俊治弁護士、労働組合関係者で映画評論・文芸評論の活動も行っている西口想氏、そして筆者の5人の登壇者がトークを展開した。その様子は朝日新聞の下記の記事で取り上げられている。 ●宅配の個人事業主、がんじがらめ 映画「家族を想うとき」から考える、名ばかりのフリーランス(朝日新聞デジタル、2019年12月23日)  このディスカッションの続きをハーバー・ビジネス・オンラインの主催で、上述の西口想氏、労働組合の伊藤圭一氏、そして筆者の3人で行った内容が、近くこのサイトで公開される予定だ。合わせてお読みいただきたい。
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共通テスト、そして「桜を見る会」
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